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【第7話】はじめての参加・対話型園内研修②


栗田は、スクリーンのそばのテーブルに置かれた自分のパソコンを操作し、「今日の研修のテーマと流れ」のスライドを写し説明をした。

「今日の研修のテーマは『お互いの保育への思いを聴こう』です。参加・対話型の研修になりますが、基本的には私の進行に合わせて様々な体験をしていただきます」
それから栗田はスライドを示しながら、研修のおおまかな流れを説明した。

「ではまず、チェックインを行いましょう。みなさんも、旅行に行った時にホテルにチェックインすると見知らぬ土地でも安心しますよね。まずは、この場にじっくりと腰を下ろして研修に安心して参加できるように準備をしたいと思います。ちょっとすみません・・・」

栗田はゆっくりと会場のちょうど真ん中あたりに移動して、自分の飲みかけのペットボトルを床に置いた。一体何が始まるのだろうと、職員は好奇の目で栗田を見ている。
「それでは、みなさん一度立っていただいて、このペットボトルが円の中心になるように、全員で一つのきれいな円を作ってみてください」
職員はぎこちなく円形になった。

「ありがとうございます。それでは、このペットボトルを見つめてください。私が合図をしたら、目線を上に上げます。そこで、目があった人とペアになってください。ただし、片思いではペアになれません。お互いに目があった人同士がペアになれます。どうしてもこの人とペアになりたい、という強い思いがある人は、がんばって目線を送り続けてください。どうしてもペアができなかった人は私とペアになりましょう」
それを聞いて、緊張していた職員から初めて笑いが漏れた。
「それではどうぞ!」
栗田が合図を出すと、戸惑いながらも職員は動き始めた。どうやらちょうど偶数だったので、10組のペアができた。

「それでは、その場で座ってください。これから5分ほど時間を取ります。お二人で話していただきたいお題はこちらです」
栗田はホワイトボードに二つのお題を書いた。

① 今日の研修のテーマについて(お互いの保育への思いを聴くこと)
② 今の気持ちを色にたとえると?その理由は?

「今日の研修のテーマは、事前にお伝えした通り『お互いの保育への思いを聴くこと』です。普段の職場の人間関係について感じていることや、今日の研修で学びたいことなどを話してください。②についてですが、今の自分の気持を色にたとえてみてください。たとえば私は、今はオレンジ色に少し水色がかっている感じです。理由は、これから皆さんと研修ができることが楽しみなのでオレンジ色なのですが、少し緊張もしています。緊張の部分が水色です。と、こんな感じで伝え合い、聴き合ってみてください。色の理由に正解はありません。では5分ほどでどうぞ」

促された職員は、少しずつ話し始めた。ペアによって様子は違っていて、すぐに話し始めるペアもいれば、どちらから最初に話し始めるかをまず相談してから話し始めるペアもいた。

栗田は職員の様子を遠くから真剣に眺めていた。3分ほど経って、ペアによって話が終わっているところもあった。そうすると栗田の方を見て、待っているという状態であったが、栗田は特に介入することもなく、職員の様子をじっくりと観察していた。
5分少し過ぎたところで、栗田は「それではそろそろ終えてください」と声をかけた。

「ありがとうございました。5分ほどの短い時間でしたが、どのような体験をされたでしょうか。保育現場はいつも忙しく、自分のことについて語る時間が取れないことが多いと思います。しかし、保育はひとりでできるものではありません。チームで保育をするためには、まずはお互いのことを知り合う、つまり相互理解ができていることが求められます。会議の最初に5分ほど時間をとって、今みなさんがやっていただいたような時間を取ることを『チェックイン』と言います。ぜひ、日常の会議でも今のような相互理解の時間を確保してみると良いと思います」

保育者も人間である。一人ひとり、体調の変化や気分の浮き沈みなどを感じながら仕事をしている。悩みは自分ひとりで抱えていると不安が強まる。しかし、他人に話すと少し楽になる。自分の状態を他者に知ってもらうことで、安心感が生まれ、互いにケアしサポートすることができるようになる。また、自分の状態を他者に説明することで、メタ認知することができ、セルフケアもできるようになる。そのような機会を保障することが、組織やチームの健全性の確保につながる。


「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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