殺害

ああ生命よ!
そんな簡単に逝ってしまうのか。
そんな簡単に殺せてしまうのか。

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長くうちに棲みついていたらしい、
長老の蜘蛛を、踏んだ。

それは、あまりに呆気なく、
くしゃり、と潰えた。
例えるなら、そう。プチシューだ。

蜘蛛なんて触ったこともなかった。
だって地獄から救えるくらいの力を持つのだ。
ただ害さぬように生きてきた。
よりによって、お前を。
そして初めて知った。
こんなに、柔らかかったのだな。

ああ生命よ!
そんな簡単に逝ってしまうのか。
そんな簡単に殺せてしまうのか。

ただこれは初めての感覚じゃない。
同じような感覚が――
気持ちを踏み躙ったとき。
声や心を殺したとき。
――確かにあった。

それらは息を吸うより簡単に潰れ、
ただ冷たく濡れて張り付き、
ぞっとするような、
後ろめたさと、
気持ち悪さだけが残る。

洗っても洗っても
感覚は取れない。

殺したのは、蜘蛛だったのだろうか。
死んだのは、蜘蛛だったのだろうか。

考えるにはもう、
余りに多くのものを殺し過ぎた。

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