「そば ほし」で一句

那須湯本の瀟洒な蕎麦屋、
「そば ほし」に伺う。
寒い日は主人が「おつ」という
「釜揚げ」をフーフー言って
食べるのが風情であるが、
少し温かくなった本日は、
冷たい「くろがね」をいただく。

自家製粉した蕎麦粉の
黒っぽい色が香りを立てる。
皮を取り除いた白い
「しろがね」は美女を
思わせる優しい味わいだが、
黒い「くろがね」は
男っぽい大胆な味がいい。

老夫婦がお帰りになると
私ともう一人の男性だけ。
「くろがね」の蕎麦を啜る
ふたりの音が静かな店に響く。
「ずずずっ」「ずずずっ」
僕は冷水につけて食べる。
彼はつゆにつけて食べる。

「くろがね」の蕎麦の香り、
太すぎず細すぎることなく
しなやかで強すぎないコシ、
みずみずしく鮮やかな蕎麦の
喉ごしの痛快さが堪らない。
「ずずずっ」「ずずずっ」
音をさせていい日本文化に喝采!

蕎麦すする 音だけするや 里の昼 京太郎