今も新鮮、モーパッサン

高山鉄男さんが編訳を務めた
岩波文庫の『モーパッサン短篇選』を読んだ。
モーパッサンは1850年北フランスの
ノルマンディー地方に生まれ育った。
1880年に中篇小説『脂肪の塊』によって文壇に登場、
1891年に精神錯乱になるまでの僅か10年あまりの間に
6つの長篇小説と約300の短篇と旅行記3編を残した。

当時のフランスの新聞は一面に短編小説を載せており、
モーパッサンはその時代の重要な書き手であった。
彼の短篇の特徴は「語り手」がいることで、
物語の内容と物語が語られる場所が同じことが多い。
これによって話が生々しい現実感を与えるのだ。
読者は小説の中で話を聞く人物同様に、
語り手の話にグイグイと引き込まれてしまう。

物語はモーパッサンが生きた世相を反映し、
その時代に起きた事件や人々の暮らしぶりを、
本人の体験や趣味などを基にして書かれている。
貴族であることの悩みや農民らの貧困と欲、
戦争や悲恋などを通じて人間の性を描く。
人間が持つ優しさや温かさといった一面と、
怜悧で非情な側面を赤裸々に描いている。

モーパッサンは1893年にパリで死んだが、
題材としてしばしば選んだ精神錯乱で亡くなった。
亡くなってから130年が経とうとしているが、
今読んでもまったく古くなく新鮮である。
それは人間の本質が何も変わっていないからだ。
モーパッサンの人間を見る鋭い慧眼は、
今も脈々と我々の教訓となるものである。
古きを知って今を知ることがとても多いのだ。