ドラマ「今朝の秋」

蓼科の山荘に一人住む老人。
妻は男を作っていなくなった。
ある日老人は東京に住む息子が
癌で余命幾ばくかと知る。
息子の嫁もまた男ができて
夫に離婚を迫る所だった。

老人は息子に会いに行く。
図らずも昔の妻に会う。
妻は息子の世話をしたいが、
不義理の妻を許せない。
息子は蓼科を見たいと言い、
父は息子と病院を抜け出す。

老人役の笠智衆の表情が
何とも言えない趣がある。
妻は杉村春子、息子は杉浦直樹、
嫁は倍賞美津子が演じる。
脚本山田太一、演出深町幸男。
名作「今朝の秋」である。

父ができることは息子が
したいことを実現することだけ。
緑に囲まれて息子は心が安らぎ、
死を前に幸福を感じる。
昔の妻と嫁、娘もやってくる。
バラバラだった家族が集まる。

偽りの家族かもしれないが、
本当の家族でもあるのだ。
息子の不治の病のお陰で
家族が一つになる皮肉と幸福。
山田太一と深町幸男が
人間の心のひだを描き出す。

不治の病という重いことが、
穏やかに描かれていく。
武満徹の優しいメロディが
緑の光景に溶け込んで
爽やかささえ感じられる。
素晴らしい役者と演出家と
脚本と音楽によって生まれた
珠玉の作品だった。