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やりたくないことはやらないだけ

家族で「かもめ食堂」を観た。

我が家の小学5年生の長男は映画が得意ではない。
理由は大きな音、ハラハラする展開、悲しい場面、そして宣伝で不意に出てくる怖いシーンが苦手だからだ。

そんな彼が好きな映画は「めがね」である。

与論島を舞台にめがねをかけた人々の日常をえがいたこの映画はハラハラとは無縁だ。
そこには美しい海があり、おいしそうな食べ物があり、ゆったりとした時間が流れているのをただ眺める感覚の映画。
キーパーソンのもたいまさこさんをはじめ、主人公の小林聡美さんや民宿の主人役の光石研さんなどそれぞれが時折見せるユーモアは派手なものではないのだが(薬師丸ひろ子さんのシーンだけは独特すぎてかなり面白い)観終わった後には充電満タン、すっかり癒されてしまっている。
彼はこのゆったりとした、観る人によっては退屈に感じてしまうこともあるであろう映画をとても気に入ってくれた。

長男とはその後、様々な映画を一緒に観たのだが、やはりストーリー展開にハラハラ感があるものは疲れるらしい。
近頃は映画はもういいと言うようにまでなってしまっていた。
めがねとトトロ以外は、と。

そんな中この年末年始に家族が順番に風邪をひいて寝込んでしまった。
病み上がりで外出もできずにいた年始、夫が「かもめ食堂」を借りてきてくれた。
これならきっと長男も楽しんで観られるだろうと夫婦で話していたのだ。

フィンランドで食堂を営む日本人女性サチエ(小林聡美)が主人公。
店の名前はかもめ食堂。
お客さんが入らない日が続く中、ひとりふたりと仲間が増え、徐々に来客が増えていく。
看板メニューはおにぎりだ。

まさこ(もたいまさこ)は空港で荷物がなくなってしまい届くのを待っている。
「洋服を買いに行ってきます」と出かけ、帰ってきたまさこがマリメッコのワンピースのような薄手のコートのような格好で現れるシーンが大好きだ。

「やりたいことをやっていていいわね。」
まさこがサチエにそんな言葉をかけるシーンがある。
対してサチエはこう答える。

「やりたくないことはやらないだけなんです。」

ハッとする言葉だった。
わたしはこの映画を観たのはおそらく2度目で、1度目は聞き流していたのだろう覚えていなかった。

やりたくないことはやらない。
とてもシンプル。

日常で起こる、やりたくないなあと思う場面。
たとえば家事が面倒に感じることは多々あって、料理や掃除。
ずっとやらないわけにはいかないが、やりたくないと思わないような工夫をすることはできるのではないか。
あるいは今日はやらない、やれる時にやろうと思う潔さ、そこに罪悪感を感じないこと。

それから仕事。
やりたくない仕事をそんなものだと思い、やり続けていないだろうか。

そう考えると「やりたくないことをやらない」ことは、ただ日常を流されるように過ごすだけではかなわないのかもしれない。
自分の心の声に耳を傾け、時には工夫が必要。
それこそが自分を大切にするということなのかなあと思ったりした1月初旬の夜。

長男は「かもめ食堂」も気に入ってくれた。
そして翌日、冬休み最後の昼食はおにぎり、中身は鮭。
日本人もフィンランド人も鮭が好きなのです。







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