見出し画像

207 穏やかな日だけど

人間として

 義母の通夜、葬儀のため妻と娘は帰郷した。朝からあれこれと荷物をまとめて、忘れ物がないか確認しつつ「早めに駅へ行ってお土産も買わないと」と予定の列車の発車時刻のかなり前に出掛けていった。
 すると、家は静寂に包まれ……ない。マンション住まいで、リビング側の道路で大規模な工事が行われているのだ。地面を掘って、上下水道関係の大変な工事である。その音が不規則に起きているので、さすがに都会暮らしの長い私自身はどうということもないけれど、愛犬は落ち着かない。
 そもそも私との留守番はあまり経験がなく、妻の入院や帰郷でこれまでも何日かあったのに、すっかり愛犬は忘れているのである。「前にもやったことあるよ」と声をかけても知らんぷりで、玄関の方向を見張っている。妻によれば食後はのんびり寝ている時間があるとのことだが、今日はぜんぜん寝ていない。それでも、放っておくしかないので、あまり気にしないようにしつつ、気にすることにした。
 MLBは、ドジャース対ナショナルズ。試合前のセレモニーはX JAPANのYOSHIKIが白いピアノを弾いていた。アメリカ国家をピアノ独奏とは、なかなかにシュールだった。
 椎名林檎の新曲が今日リリースというので、YouTubeとSpotifyで楽しんだ。バーンスタインの「ウエスト・サイド物語」を連想しないわけにはいかない『人間として』。さらにカップリングの『紅海月の夜』は、コンボスタイルのジャズで、ドラムやベースのソロもある。メジャーな音楽シーンでこういうタイプの作品を繰り出し続けることができるアーティストはそう多くはない。どちらの曲も基本は驚くほどアコースティック。『人間として』の映像はバレエだ。作曲もアレンジも指揮もすべてやっているようだ。アコースティックとはいえ、『紅海月の夜』のピアノの音色はエキゾチックだった。ちなみに4月17日は、4(し)1(い)7(な)の日だとファンはXで告げている。

陰陽師とX

 人間として、私たちのいわば復権が、ある意味ルネサンス的な改革が、もしかしたらこれから必要なのかもしれない。たとえば、イスラエルとイランの間に起きている戦争状態は、極めて奇妙な21世紀の世界を映し出している。そもそもどちらかが始めて、その報復をする。ところが、大国たちがそれぞれに「報復はするな」とか「報復するとしてもこのぐらいで」といった奇妙なプレッシャーを与え続けている。まるで、両国がどの声を採用するかコンテストでもしているかのようで、そこで人が傷つき亡くなっていることと結びつかない。人間とは、正義とは、と誰しもが考えてしまうだろう。
 そういえば『月刊ムー』2024年5月号で、総力特集『陰陽師安倍晴明と闇の系譜「術法ノ者」』がおもしろかったのだが、その中にX(旧Twitter)について「『呪(しき)』が渦巻いている」と映画『陰陽師0』の佐藤嗣麻子監督の言葉があった。
 陰謀論は相変わらずあちこちから噴き出すし、フェイクニュースは常に私たちの目の前にビカビカと光っている。テクノロジーとAIによって支配されている世界、といったディストピア的なイメージさえある現代でも、そこに乗っているのは「人間」そのものだ。恐らく生物で、相手を呪うのは人間だけだろう。宇宙人は呪いをかけるのだろうか? まあ「知ったことか!」と言ってしまうのもありだけど。
 それにしても、休憩時間が終わると、猛烈に道路をガガガガッと掘りはじめた。これはさすがに人間としてものんびりできる環境ではない。

描きかけ。今回は背景から。



 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?