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【宮島】神住まう、島の祈り|歴史が生んだ佳景(前編)

瀬戸内海の広島湾に浮かぶいつくしま。宮島とも呼ばれるこの島は古来、島そのものがご神体として崇められてきた特別な場所です。
本特集では、この島の美しさの理由に迫ります──。(ひととき11月号特集「宮島、歴史が生んだ佳景」より)

神の島の祈りの歴史

「安芸の宮島」とも呼ばれる厳島は、古名を「いつきしま」という。「神をいつまつる島」ということだ。

 島そのものがご神体である。常緑の深い森に覆われた山々が峻厳にそそり立つこの島の姿を、古代、船で行き交う海の民は畏れ崇めた。神域を侵すなど思いもよらず、瀬戸を隔てた対岸から遥拝ようはい、あるいはわずかに岸辺に上がって祈りを捧げた。

 島には地元のひとびとにそのように祀られた、たくさんの神がいた。なかでもよく知られる嚴島神社は、縁起によれば593(推古天皇元)年に創建されたという。その名が公式に現れるのは約200年後、歴史書『日本後紀』に、

伊都岐いつきしましんを名神に列し……」

と記されるのが最も古いものだ。瀬戸内海はすでに重要な交通路となっていた。要衝にあたる厳島は国家の保護を受け、地域の神としてばかりでなく、海上守護神として広く信仰を集めていた。市杵島姫命いちきしまひめのみこと宗像むなかた三女神さんじょしん*と結びつけられるようになったのもこの頃だろう。

*嚴島神社の御祭神は市杵島姫命、田心姫命たごりひめのみこと湍津姫命たぎつひめのみことです

遠浅の入り江に立つ嚴島神社の大鳥居。現在の大鳥居は1875(明治8)年に建立されたもので、ふたつの主柱にはそれぞれ1本のクスノキを使用。上部の笠木と島木は箱状で、中には小石が詰められており、約60トンある重さで自立している。海は約6時間おきに満ち引きし、干潮時はそばまで歩いていける *本記事の画像コピーは固くお断りします

 だが、一躍その名が広まるのは12世紀のこと。権力の絶頂にあった平清盛の、熱烈な信仰を受けてからである。

 それまでの嚴島神社がどのようなものであったのかはわからない。が、それをいま見られるような、壮麗な姿につくり替えたのが清盛だ。長い回廊で結ばれた寝殿造りの社殿は、ご神体である島を傷つけることを避け、砂州の上に建てられた。潮が満ちれば、朱に塗られた大鳥居とともに海に浮かぶように立つ。清盛はじめ平家一族、貴族たちは都から往路1週間という長旅をものともせず、相次いで幾度も訪れ、船で大鳥居をくぐった。本殿を通して島を拝し、一門の繁栄を祈った。

平清盛によって造営された嚴島神社の壮麗な社殿群。ご神体である島を傷つけないよう、海中に社殿を築いたとされる
縦2.6メートルもあるという大鳥居の扁額。沖側には「嚴島神社」、社殿側には古名の「伊都岐島神社」と大書されてある

 当時、神仏習合が進みつつあった。清盛が金・銀・でんで絢爛に装飾した経典を嚴島神社に奉納したのはそのためだ。いまに伝わる国宝「平家納経」である。その願文がんもんに、清盛はこう記す。

〈相伝えて云う、当社は是れ観世音菩薩のげんなり

 厳島の神は観世音菩薩なのだ、と。清盛はあまの僧侶を回廊と社殿に集め、盛大な「千僧せんそうよう」を催し、また楽師と舞人を呼び寄せて次々に舞楽を奉奏した。なんと華やかな、きらびやかな! 遠い都の洗練の極みにある文化が、瀬戸内のこの小さな島に花開いたとは。清盛はここに、極楽浄土の姿を夢見ていたという。

急峻な稜線と深い谷間が平行に位置する厳島の地形。その島影は「観音様の横顔」とも言われる。額が主峰の弥山みせん(535メートル)で、鼻や口が駒ヶ林(509メートル)

 島に住むひとは長くいなかったが、やがて神に仕えるない・神職らの館がつくられ始めた。時は流れ、経済力をつけた庶民が参詣に訪れるようになると、その相手をする商人が住みつき、門前町ができていく。現世利益を求める庶民の間で、厳島の神は七福神の一神で財運を司る弁財天なのだ、という話が広まると、さらに信仰を集めるようになる。江戸時代には参詣人を目当てに市が立ち、歌舞伎に相撲興行、富くじで賑わい、広島本土から遊廓が移され、厳島は物見遊山の観光地としてますますその名を高めていった──。庶民もまた、ここに楽天地を夢見たのかもしれない。

文=瀬戸内みなみ 写真=阿部吉泰

──この続きは、明日公開の記事「潮風薫る七浦で出会う、もうひとつの宮島」に続きます(記事全文は本誌でお読みになれます)。宮島で自然崇拝が生まれた背景には、その地形が関係しているといわれています。信仰の歴史は宮島に貴重な植生をもたらし、せん原始林は嚴島神社とともに世界遺産に登録されました。本誌では、自然に詳しい専門家とともに宮島をめぐり、この島の美しさに迫ります。宮島の美しい写真と共に、ぜひお楽しみください!

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<目次>
●PROLOGUE [信仰]神住まう島の祈り
●NATURE TOUR1[地質]宮島の造形
●GOURMET 美味なる宮島
●NATURE TOUR2[植生] 宮島の植物

GROUMET 美味なる宮島

編集部おすすめの宮島の美味をご紹介します

宮島レ・クロ
築100年を超える日本家屋をリノベーションしたレストラン。シェフの黒越勇さんによる地元食材を使った西欧料理が味わえる。写真上は牡蠣殻を混ぜた飼料で育てた県産銘柄豚「瀬戸もみじ」のソテー。ハニーマスタードソースには宮島で採れたはちみつを使用

広島県の銘柄豚「瀬戸もみじ」のポークソテー!
穴子のペペロンチーノも絶品! 

はつはな果蜂園の宮島はちみつ
内各地で養蜂と柑橘の栽培を行う「はつはな果蜂園」。宮島の緑深い自然の中で採取した天然はちみつはソヨゴやサカキなどの百花蜜で、濃厚な甘さが特徴。宮島口フェリーターミナルのはつこいマーケットなどで購入可。「宮島はちみつ(夏)」120g・1,200円 

宮島レ・クロ
☎0829-30-7196
廿日市市宮島町527-1
[営]11時30分~15時、17時~21時
(いずれもL.Oは閉店1時間前、夜は要予約)
[休]不定休
はつはな果蜂園の宮島はちみつ
販売店など詳細は下記HPをご参照下さい。
https://hatsuhana888.com/

 

出典:ひととき2023年11月号


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