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動物が好きだからこそ、向き合わなければならない「死」のこと

こんにちは、編集長です。
12月に編集を担当した本が出版されます。


『死んだ動物の体の中で起こっていたこと』

著・中村進一 本体1,800円(+税) 2023年12月12日発売


今は無事校了し、刷り上がりを待つばかり。
緊張続きの本づくりの中で、ふとひと息つける瞬間でもあり、もっともソワソワする時間でもあります。

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話は2年とちょっと前に遡ります。

時間さえあれば博物館や動物園や水族館で過ごすのが当たり前だった私の日常は、得体の知れないウイルスによって突如失われ、鬱々とした気持ちを抱えながら日々をやり過ごしていました。

そんな中、ネットではバズりを狙った野生動物とのふれあい動画や、エキゾチックアニマルと呼ばれる珍獣ペットの動画がやたらと目につくようになり、テレビでも「かわいい」「癒される」を謳った動物の動画寄せ集め番組が繰り返し放送されるようになったのは、体感的にはこの頃からだったように思います。

動物は確かにかわいい癒される
うちにも「かわいい」「癒される」を集約したような愛犬がいたので、それに対しては全くもって異論も反論もありません。

でも。

野生動物に、そんなに近づいて大丈夫?
この動物、かわいいけど本来は気性が荒いはず。ちゃんと飼えているのかな

動物が好きだからこそ、私の意識は自ずとそっちへ向いてしまい、正直この手の動画やテレビ番組に無邪気に癒されるという心境には、とてもなれませんでした。


そして、動物にはもう一つ、絶対に目を背けられない現実があります。
いつか訪れる、「」です。

その頃、我が家の愛犬はすでに17歳を超えていて、親バカながら見た目こそとっても若々しく見えていたものの、実態は立派なシニア犬。少しでも体調を崩して動物病院に連れて行けば、「もう歳ですからね、」と言われる。
そうなると、いやでも考えさせられるのです、残りの時間を。

できれば考えたくない
でも、どんなにかわいがっていても、今は元気そうに見えていても、そう遠くない未来に必ず来てしまうものだから。
せめて、苦痛があれば少しでも取り除けるように。そしてできるだけ安らかに送り出してあげられるように。
そう思い直して、「その日」への準備も少しずつ進めていきました。


中村進一先生のこのブログを目にしたのは、ちょうどその時期です。

動物のお医者さんには、遺体を専門に診る病理医もいるのか……

亡くなった動物を病理解剖して病気や死因を解明する「獣医病理学者/獣医病理医」という仕事があることを、恥ずかしながら、私はこのとき初めて知りました。

そしてブログを一気に読んで、動物の命に対する真摯な思いに胸を打たれるとともに、バシッとお尻を叩かれたような気がしたのです。

この言葉を、この志を、本にしなければと思いました。


動物は生き物です。
生き物だから病気もするし、怪我もする。その先に、必ず「死」も訪れる。
そして、その「病気」や「怪我」や「死」に、直接・間接的に人間が関わっていることも、残念ながらあります。

欲しがるからこのお菓子をあげたいけど……、本当にあげて大丈夫?
最近流行っているこの動物、飼いたいけど……、最後までお世話できる?
近頃食欲が落ちたのは歳のせいだと思っていたけど……、それって病気の可能性はない?
この子には自由に出入りさせてあげたいけど……、外で事故に遭ったらどうしよう。

そんなふうに、ちょっと立ち止まって考えていたら。
内臓への負担を減らして、病気のリスクを少しでも回避できたかもしれない。
お世話できずに結局手放してしまうような、悲しい結末を迎えずに済んだかもしれない。
早く治療をしていれば、苦痛を和らげたり、治してあげることもできたかもしれない。
外での不慮の事故や、誤飲による中毒を避けられたかもしれない。
もっともっと長生きして、安らかな最期を迎えられたかもしれない。


人間のエゴで「かわいい」を享受するなら、私たちはその命に責任を持ち、「かわいそう」で終わらせるのではなく、知らないことは知る努力をしなければならないのだと、いま改めて、そう強く思います。


この本の「はじめに」には、こんな言葉が綴られています。

生き物である限り、人も動物もいつかは必ず死にます。人の体も動物の体も極めて巧妙にできていて、この世に生まれることは奇跡に近いことなのに、必ず死ぬものなのです。動物の「死」と真摯に向き合うことで、その対極にある「生」の大切さが理解できる。本書を読んでいただき、動物の「死」について思いを巡らせていただければ嬉しく思います。


この言葉が、ひとりでも多くの動物好きに届きますように。

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2023年5月、我が家の愛犬は、19歳の誕生日を迎えたひと月後に、とても、とても安らかに旅立ちました。
17歳でその日を覚悟していた飼い主を尻目に、その後2年もそばにいてくれた孝行息子。

あなたがきっかけをくれた本が、やっと完成したよ。

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