ジョセフ・ヒース氏の『啓蒙思想2.0　政治・経済・生活を正気に戻すために』を読んだ話をします。

先月のNHKの番組【思考のオルタナティブ】で著者が取り上げられていたので、興味を持って読みました。
400頁越えのごつい本で、昨今の日本の出版物の中では文字も小さめだったので、老眼の人間には常にエンジンのギアを上げつつの読書になりましたけどね。

この本は10年くらい前の本なので、著者の主張する正気の無さもあの時代のアメリカです。
でも一周回って、今の日本も正気じゃないよねと思えるので、考え方として興味深く読み進められました。

で。
この本は思考の本です。著者の思考のプロセスが、400頁に渡って綴られています。
それでも割と、各章のまとめみたいな部分があります。
最初は、ものすごく高い壁をよじ登るように感じながら読みましたし、途中で著者の思考が本題からずれていってる気もして不安になったりもしましたし、書かれてあることすべてに賛同はできないですけど、読んで無駄じゃない本だと思います。

以下、個人的に受け止めた答え。

• 人間の脳はラクをしたがるので、そもそも合理的思考をし続けるようなつくりになっていない。

• どんな優秀な人も、先人たちの知性の積み重ねの上にあるだけだし、現代社会そのものも、これまでの歴史の積み重ねの上に今がある。

• 直観的判断や無意識は、未来予測が苦手。だから直観で行動しているとどんどん怠惰に陥る。10年後に差が出るとわかっていても筋トレをさぼる。

• 合理的判断の確証はできても反証はできない。自分自身で「正しい」と思っているバイアスを脱することは困難。反証できるのは他者のみだから、他者との対話が不可欠。

• わかりやすい説明文より難解な説明文の方が、読む側も脳のギアを引き上げて読むので、それがテストの問題文だった場合、難解な方が正解率が上がるらしい。

先人たちの積み重ねを簡単に否定できない、という部分は、この前に読んだ柳田国男の『日本人とはなにか』とも重なります。
ゼロから国家社会を建設するような旧東側諸国の失敗を、合理性のみの実験結果として、伝統や積み重ねの重要性を証明するものとして挙げています。
伝統には非合理性も含まれている、それも承知の上で、それでも長年残されてきたものには、それなりの理由があるからだよね、と。

とはいえ、慣習に無批判に従うだけだったり、直感だけでものごとを判断すると、人間の脳はラクな方へ流されていく傾向があるから、それで本当に大丈夫か、他者目線での反証が常に必要、と。

読んでみれば、わりと当たり前のことが書かれていたりします。
自己啓発本などで、習慣化について読んだことがある人なら、人間の意志の弱さもスタンダードですよね。もう筋トレもストレッチもおやつ我慢も、全然習慣化できないですもん。

だから、他人と集まって対話しよう。社会に正気を取り戻すために、合理的判断と伝統的判断を合わせながら、改革をし続けよう……ということなのかなと思いましたが、ただ「こうすれば社会は良くなる！」みたいなことは書かれていません。てか、書かれててそれが正解だったら、10年もたてば変化がありますわな。あ、でも、トランプ落選しましたね。

ジョセフ・ヒース氏は、読んでると自己責任論者をうかがわせる部分も見受けられるので、そこはちょっと同意できない。女子は男子に体力でかなわないのに、ダメな男から逃げられない判断の責任は、押し付けるなとも思う。
それとも著作が10年前だから？

人間個人の能力は本当に小さいものなので、ラクをしたがる環境を変えていく必要がある、というのがまあ結論のようです。
環境が変わらないと、人間って変化していかないのですが、その環境をかえるのも、また人間。

たとえばブログの文章も、とにかくわかりやすさ全開が求められてきてますけど、それもある意味……というかむしろ、我々の脳をあほにしてる一因かもしれませんね。だって、改行なしの長文って読むの疲れて挫折したりするんだよ。情報量多いものにもはや脳がついていかないから、マンガが読めないんだよ（『呪術』5巻で挫折）。すかすかの文章って、超ラク～。

わかりやすい文章より難解な文章読んだ方が頭がよく働く、というなら、脳細胞がどんどん死滅していく50代ですので、これからはじゃんじゃん難しい本に挑戦していこうかと思います。
いや、まあ、だったら外書は原文で読めよ、なんですが、それは言っちゃあお終えよ。

日本の政治家も無駄遣いばかりしてるし、莫大な裏金流し込んで腐敗してるし、正気を取り戻さないと、発展途上国の軍事独裁政権と変わらない状態に成り下がっています。
私は直感で生きてるような人間ですけど、大阪万博に1兆円規模の支出は無駄やし、パーティー券販売やめる名目で政党助成金できたはずなのに両方で金取ってるのは詐欺だし、武器輸出は国会で議論すべきだし、辺野古埋め立てマヨネーズ地盤は「地球には勝てんよ」と思う。

急がず落ち着いてゆっくり考えよう。

ありがとうございました。