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【読書記録】澤田瞳子さんの『のち更に咲く』を読みまして

毎週毎週、NHK大河ドラマ【光る君へ】を楽しみにしていると、同じ平安時代の話を、もっと知りたくなりますよね。
澤田瞳子さんの『のち更に咲く』は、盗賊を兄に持った女性主人公の話ということで、読んでみました。

正直、最初はちょっととっつきにくいかな? と思いました。
文章で平安時代を読むというのが、『源氏物語』以来だったし。(『平家物語』は大昔に吉川英治版2巻で挫折した……)
歴史の概説書と違い、小説って、その世界にすっと入っていく、その心構えが、日頃小説を読んでいない奴には、ぬるいんですね。反省。

また、兄が盗賊、父は酒乱で、世間から犯罪者の家族という烙印を押された主人公たちが、ことあるごとに「しかたない」と我慢し続けるのも、読んでてちょっとしんどかったです。
このしんどさ、現代のネットいじめ的なものを彷彿とさせるというか、平安時代の世間の狭さと現代のネット環境が同質と気づいたあたりで、作品世界がぐっと身近に感じられ、だから本当に主人公・小紅を応援しまくってました。

で、まあ、物語は、20年ほど前に捕縛され亡くなった盗賊の兄・保輔が、実は生きているんじゃないか? という疑惑から動き始め、道長家の女房である小紅が、事件に巻き込まれつつ奮闘する……という、エンターテイメント小説が、本作かと思われます。

読んでて、最初の躊躇いもいつの間にか吹き飛んでしまい、ページをめくる手が止まらなくなって、あっという間に読んでしまいました。
和泉式部、紫式部、藤原道長、源倫子など、有名人たちもどんどん物語に関わってくるし、ええっ? そう行く? な展開になっていくし、すごく面白かったです。

って、なんかものすごくアホな感想ですみません。
小説の感想って、めっちゃ難しいわ~。ネタバレも気をつかうし。

個人的には、以下の文章がすごく心に残りました。
(これ以後、さっそくネタバレに近いことをやらかしている気がします。ご注意ください)

この豪奢な屋敷で「佐渡のおもと」と呼ばれ続ける自分にも、汚れ仕事を押し付けられても歯向かえぬ保昌にも、人並みの意地はあるのだ。確かに自分たちは、咎人の血族だ。しかしだからといって、それでもなお生きていかんとする志まで、虐げられていいはずがない。

澤田瞳子『のち更に咲く』

「佐渡のおもと」というのは、小紅の女房名「民部のおもと」の蔑称、保昌は長兄ですね。
この長兄・保昌は、道長四天王の一人だそうで、実直な気遣いの人という感じです。
ちなみにこのきょうだいの一人に大紅という女性(小紅の姉・保昌の妹)がいて、彼女は源満仲に嫁ぎ、源頼信を産んでます。この頼信の子孫が、鎌倉殿ですね。

それはさておき、影口叩かれてもじっと耐えて諦めていたいじめ被害者気質の小紅が、前を向くんです。立ち上がるんです。動き出すんです。
影ながら応援せずしてどうする?(アホですみません)

とはいえ、身分制の平安時代ですから、立ち上がったって限界があります。
小紅には和歌や書き物の才もない。
読みながら、渡辺和子さんの『置かれた場所で咲きなさい』を思い出してました。

『置かれた場所で咲きなさい』って、タイトルのインパクトから拒絶反応を示す方もいらっしゃるけど(私も最初そうでした)、あれって、何が何でも環境に従いなさいということじゃなくて、どうしても変えられない環境(父親が銃殺されたとか)は受け入れるしかない、というように解釈しようという話ではないかと思います。職場でいきなり大役を任されても、とりあえずやってみよう、とか。

小紅の場合も、咎人の家族という事実は消せないし、だから言い寄ってくる恋人もいない。和歌のうまさで身を立てることもできない。上臈女房にもなれず、一生を終えることになるかもしれない。
でも、生きていく志を自ら手折ってどうする? ということですね。

平安時代は階級社会で、頂点に立てるのは一握りの人たち。
でも、現代もそれに近い状況にあります。
庶民の無力感は精神を蝕むし、そうして無気力に陥ったのをこれ幸いと、権力者はやりたい放題。
だからといって、小紅の長兄・保昌のように、権力者に媚びへつらうやり方では、もはや国がもたないので、我々は他の道を行くしかありません。
なんだかなあ。むなしくなりますね。

それにつけても、小説の感想って難しいです。
澤田瞳子さんの小説を読んだのが、これが最初というのもありますが、もう、小説の読書量のなさが、如実に表れておりますな。
もっともっと小説を読もう。(敗北宣言)

ということで。
小説って、始めの数ページ読んで、出てくる人名の読み方とか世界観とかに「難しさ」を感じる場合が時にありますが、でもじっくり読んでいけばどんどん面白くなる! ということだけは言えるかな、と思いました。
平安時代を脳内再生するのに、私は最初戸惑いましたが(そんなアホは私だけかもしれませんが)、だからって諦めてしまわなくて本当に良かったです。

欲を言えば、盗賊・保輔の活躍をもっと読みたかったですね。まあそうすると、あまりにありきたりなストーリーになってしまいそうですが。
なんとも難しいことです。


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