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【ココロコラム】「成功本」の注意点

私はちょっとした都合で、いわゆる「成功本」をたくさん読むことがあります。「100倍能率がアップする仕事術」とか「他人より愛されるあなたに」とか「年収1000万円への最短コース」といった類の本です。

仕事や恋愛などに失敗気味のときほど、ついついこの手の本を手にとってしまう方々も多いのではないかと思います。ところが、その「成功本」の通りにはなかなかいかないのではないでしょうか。それは「成功本」に共通する落とし穴に読者が気づいていないからです。今回はその落とし穴について解説してみましょう。

「成功本」は、著者がたまたま成功した方法を書いてあります。その方法が100パーセント正しいことはないのですが、実際には成功したことが根拠になって、すべて正しく見えてしまいます。これを心理学的には【ハロー効果】といいます。5年前、10年前に成功して、いまは凋落(ちょうらく)した人の「成功本」を読んでみると「なんで当時の読者はこんなことを本気になって読んでいたのか?」と思うことがあります。

これは、失敗が明らかになっている目で見ると、【ハロー効果】もなくなり、冷静に記述を眺められるからです。「成功本」は、著者が今現在成功しているから、たまたま輝いて見える箇所、つまり【ハロー効果】が現れている場所を割り引いて読む必要があります。ほとんどのページがそのような部分に当てはまってしまうことも少なくありませんが・・。

もう一つ「成功本」に現れがちな特徴が、過度の競争をあおり、時間的切迫感を強調することです。どの本を見ても「30歳までに絶対婚活!」とか「ライバルより2倍の仕事をこなす」といった、他人に負けない。あるいはもう時間がないというようなメッセージが隠れています。これで読者の不安をかきたてるわけです。

実際、「成功本」を書いている著者も、同じような強迫観念に駆られている人が多いのか、人生を高速道路で飛ばすかのように、驚くほど先を急ぎ、多くのことをこなそうとしています。「成功本」の著者は、とにかく他人より優秀でいたい、てきぱきと仕事などを片付けたいという欲求が、人一倍強いといえます。その結果、他人より大きな仕事などの成果を得ているのでしょう。これはこれでよいことではあります。

しかし、読者のうちのかなりの割合は、そこまで競争が好きでもないし、時間的に追い詰められてもいないのです。そういう読者が、「成功本」の真似をしてもうまくいかないのは当たり前のことです。最初から仕事や時間に対するスタンスが違うからです。

つまり、「成功本」を読んで「そこまでして成功したくない」とか「そんなに急いでどうするんだ」と思ったことは、著者と読者の人生観が違うところです。そういうところは参考になりません。やはり、割り引いて読む必要があります。

以上二つの点、つまり著者がたまたまうまくいっただけの方法と、読者がそこまで深刻に思いつめていないところを割り引いて読むと、「成功本」のなかの、読者にとって実行できるノウハウは、ものすごく少なくなってしまいます。ここに、「成功本」を読んでも、一般の人にはなかなか参考にならない原因があります。最初からうまくいかなくて当然だといえます。

不景気のせいか、書店に行くと以前にも増して「成功本」が増えたような気がします。読んでみて、とても自分には無理だと思ったり、あるいは一つ二つ実行してみて「とてもできない」と思った方もいるでしょう。かといって、落ち込む必要はありません。そういう方は「成功本」というジャンル自体が合っていないだけの話なのです。

(精神科医・西村鋭介)


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