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【ココロコラム】忘年会とクリスマス

一年の総決算。忘年会、クリスマスとイベントが続く12月下旬。みなさんにとっても楽しい時期だと思います。精神医学的に見ても、この時期にこのようなイベントがあるのはココロの栄養分として非常にいいことです。今回はそのあたりのメカニズムを少し考えます。

忘年会の趣旨は文字通り一年を忘れようということでしょう。忘れるというところに、先人の知恵を感じます。一年にはいろいろいいことも悪いこともあります。いいことはいつまでも覚えているものです。問題は悪いこと。

自分の失敗や災難や悲しみを、いつまでもくよくよと考えているのは、精神衛生上、非常によくないことです。それは誰でもわかっていますが、なかなか反省と後悔の循環から抜け出せないのが人間です。そこで、忘年会は、一年の終わりという時間の節目を利用して、強制的にその一年のできごとをリセットしてしまうわけです。

もちろん忘年会をしたからといって、なかなか嫌なことを頭から一掃することは難しいでしょうが、「嫌なことは時間を区切って考える」という発想自体は、精神医学的にも心理学的にも非常に有効です。

「この苦しみはいつまで続くのだろう」と、問題の解決の見通しが立たないと、必要以上に落ち込みがちです。そういう時は、「あと三ヶ月たてば何とかなる」などと、適当に期間を設定して、その期間が過ぎたら自然と回復すると思っていたほうが、結果的に立ち直りが早くなります。

ちなみに精神医学では、三日、三ヶ月、三年を一つの区切りとしてみることが慣例的に多くなっています。つまり、自分にとって非常に苦しい問題で、年を越しても「忘年」できなかったことでも、最長で三年もたてばだいたいどうにかなっているものです。これは頭の片隅においてほしいと思います。

クリスマスを恋愛と結びつけて、あたかも「恋愛の日」のようになってきたのは、二十年ぐらい前のバブル期からだと思います。バブルがはじけて、現在の不景気時代になっても、この風習があまり廃れていないのは、やはり何か人々の心に訴えかけるものがあるからでしょう。

カップルはいつもの時間から少し離れて、ロマンティックな雰囲気に浸る時間が必要です。カップルは慣れるにつれてどんどん惰性が進みます。日ごろはできていないことを、相手にしてあげる日は、恋愛を維持する上で定期的に必要になります。そのタイミングとしてクリスマスがたまたまちょうどよかったということではないでしょうか。

特に日本人は、面と向かって相手に好意を伝えるのが、あまり得意ではありません。いつもは苦手だけど、クリスマスぐらいは思い切って、いつもは行かないレストランやホテルに行ってみたり、何かプレゼントをあげるなど、思いを行動として表現しやすい。クリスマスは、内気な人のジャンピングボードとして機能していると思います。

心理学的に見ても、あるタイミングがきたら自動的に行動すると決めている場合、その行動をとりやすくなります。また、普段やらないようなことでも、みんながやっていれば、抵抗が薄れてやってしまうことも証明されています。

クリスマスは、世間公認で、カップルが甘い雰囲気に浸っていい日。こういう日は、ふだんなら恥ずかしくていえないようなことでも言ってしまう。これが、恋愛を深めるのに非常に大きな役割を果たしています。クリスマスは、普段の自分ではできないような思い切ったことをやってみる、いいチャンスです。

忘年会にしてもクリスマスにしても、そのタイミングにかこつけて、ちょっとはめを外してしまっていいと思います。その方が、すっきりと新年を迎えられるはずです。

(精神科医・西村鋭介)

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