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著…泉鏡花 絵…ホノジロトヲジ『外科室』

 注射器から吐き出される、幾つもの「眠」の文字。

 そして、血のように赤いページ。

 こうした挿絵の妖しさが、この小説の悲劇を引き立たせます。

 ある恋の悲劇を。


 ※注意
 以下の文はネタバレを含みます。



 美しき伯爵夫人。

 訳ありの彼女は、これから外科手術を受けるというのに、

 私はね、心に一つ秘密がある。痲酔剤(ねむりぐすり)は譫語(うわごと)をいふと申すから、それが怖くつてなりません、何卒もう、眠らずにお療治が出来ないやうなら、もうもう快(なお)らんでも可い、よして下さい。

(著…泉鏡花 絵…ホノジロトヲジ『外科室』P22から引用)


 と言って麻酔を頑なに拒みます。

 彼女は自分の命を失うことよりも、もっと恐れることがあったのです。

 それは、自分が長年胸の奥に隠し続けた秘密が明らかになること。

 その秘密とは一体何なのか…?

 興味を持ってくださった方は、是非この本を読んで確かめてください。

 一体、誰と誰が心を通わせていたのかを。

 現代人が読むには難解な文章なので、一度読んだだけでは内容が頭にスッと入ってこないかもしれません。

 しかし、何度も繰り返し読むうちに、ああ、そうだったのか…と事情が分かってきて、

 「でも、貴下は、貴下は、私を知りますまい!」

(著…泉鏡花 絵…ホノジロトヲジ『外科室』P38から引用)

 という悲鳴をあげる胸の苦しさも、

 「忘れません。」

(著…泉鏡花 絵…ホノジロトヲジ『外科室』P41から引用)


 という短い返事に凝縮された、長年募った恋の切なさも伝わってきます。

 わたしはこの本のP43に書かれている文章の激しさも好きなので、出来ればここで全てを引用したいのですが、敢えてそうせずにおきます。

 是非実際に読んで欲しいから。

 そしてこの「すごい物語を読んでしまった…」という感覚を、誰かと分かち合いたいです。

 なお、作者である泉鏡花は、読者にこう問いかけてこの小説を締めくくっています、

 語を寄す、天下の宗教家、渠(かれ)ら二人は罪悪ありて、天に行くことを得ざるべきか。

(著…泉鏡花 絵…ホノジロトヲジ『外科室』P57から引用)

 と。

 きっとその答えは読者一人ひとり異なるでしょう。

 あなたはどう思いますか?



 〈こういう方におすすめ〉
 悲恋物語が好きな方。

 〈読書所要時間の目安〉
 1時間前後くらい。

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