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川島雄三監督「幕末太陽傳」〜何度見ても面白い、落語ファンは必見

先月の春風亭一之輔の独演会「春秋三夜」で「居残り佐平次」を聴けたことはレポートした。その高座に刺激され、映画「幕末太陽傳」(1957年日活)を俄然見返したくなった。

川島雄三監督の名作喜劇は、落語の「居残り佐平次」を基にしたと解説されることが多い。確かに主演のフランキー堺が演じるのは佐平次。仲間と共に品川の遊郭に登楼するが、払う金がなく居残りを決め込む。まさしく「居残り佐平次」の展開そのものである。

しかし、この映画はそんな単純な構造ではない。タイトルの通り時は幕末であり、志士として二谷英明や石原裕次郎が登場する。石原裕次郎は本作の前年、長門裕之主演、石原慎太郎原作の「太陽の季節」でデビューした。「幕末太陽傳」の石原慎太郎はすでに輝いているが、同年の12月に公開される「嵐を呼ぶ男」の大ヒットでスターの地位を確実にする。

石原が演じるのは高杉晋作。高杉と言えば、“三千世界の烏を殺し 主(ぬし)と朝寝がしてみたい“という都々逸を残したとされる。世が明けると“カァカァ“とうるさく鳴く烏をうらんだ、色っぽい歌である。今朝の東京、朝6時に外に出ると、確かにカラスが鳴いていた。

この歌は「三枚起請」という落語に登場する。“起請文”とは自分の行為が嘘偽りのないものであることを、神仏に誓うべく書面にしたものである。落語では、花魁が三人の客と「年季が明けたら夫婦になる」と起請文を交わす。起請文に嘘を書くと、熊野でカラスが三羽死ぬと言われているのだが。。。。

花魁役は、南田洋子(可愛い!)に左幸子。彼女たちは、嘘つき花魁なのだろうか?

小沢昭一が貸本屋の金造という役で登場する。これは、「品川心中」という噺の主人公である。金造の運命やいかに。

といった感じで、古典落語のエッセンスがあちらこちらに振りかけられている。長兵衛の借金のカタとして、遊郭で女中をしているのは、芦川いずみ(後に藤竜也と結婚)演じるおひさ。ん、どこかで聞いたことがある。遊び人の若旦那は、当然にして徳三郎!

挙げた名前以外にも、有名どころが数多く登場するオールスターキャスト、若き日の小林旭が長州藩士・久坂玄瑞役で登場する。

当時の遊郭の様子が映像で見られるのも嬉しいのだが、風俗考証として木村荘八の名前がクレジットされている。永井荷風の「濹東綺譚」の挿画も描いた画家で、東京の風俗に詳しくエッセイも多数残し「新編 東京繁盛記」(尾崎秀樹編、岩波文庫)として出版されている。木村荘八は明治26年生まれだ(1958年没)が、幕末の匂いを感じつつ研究した人のインプットも、大きかったのではないだろうか。

改めて凄い映画を作ったものだと感心する。この映画は、話が飛び回るので最初は戸惑った。ところが、再度見ると細かな工夫が色々見えてくる。

何度見ても新たな発見が‘ある「幕末太陽傳」。日本映画ファンはもちろんのこと、落語ファンは必見の名作です



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