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高校生までの当然が不便に変化した

ひとり暮らしの期待は
両親が不安そうな顔で見送ってくれたのを尻目に
空港の搭乗手続きから始まっていた

「わたしなら、上手く暮らしていける」
19歳になったばかりの自分は虚勢で始まり
入学式で、鼻を折られた

わたしと一緒に都会へ来たスーツは、皺

予定では、新品のスマートな姿を想像していた
パンプスだけは、磨かれて
だけど、肝心なスーツに皺があった

実家なら、ここで
「おばあちゃま」祖母に差し出し
アイロンをかけてもらう
高校生までの当然が、不便に変化した

入学式は、大学ではない場所だったので
「誰も見ない」と決めて、部屋を後にした

初めて会う同級生達と、公園でブランコ遊び
入学記念で先輩方がお高めの夕食を奢ってくれ
現地解散

いざ、家に帰ろうと思ったら
自分は何線に乗ればいいのか、分からない

広島なら、山陽線か呉線を迷わなければ帰れる

公衆電話を探す
実家に電話し「お父さん、何線に乗ればいい?」
父が都内に居た頃、なかった路線

とりあえず、東京駅まで教えてもらい
東京駅では迷子になり、脱出して
通過点の八丁堀を目指し、歩いて帰宅した

目印になる、大きな橋を見たときは
やっと生きた心地がした
実家暮らしのように、駅まで誰も迎えに来ない

真っ暗な部屋へ帰ると、壁伝いにスイッチを探す
黄色く灯った玄関に
段ボール箱をまとめた束が陣取っていた

#ひとり暮らしのエピソード
#メディアパルさん