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短編: 夢と現実の不安定さ

春の夢。
私が目覚めると笹の茂る中に無造作な形で横たわっていました。

これは夢だと頬に手をやると太い筒のような爪。
立ち上がっても四つん這い。両腕から下を覗き込むとフカフカのしっぽが目に入ります。

リスに化けている……
「ここはどこ?」考える間もなく不穏な獣の鳴き声はけたたましく林を裂き、やがて銃声が轟きます。

「今はまだ猟期なのね」
私は人間であり、これは夢なのだと笹の茂みに座っていると、
「リス鍋は美味いぞ。マンガで見たんだ」男達の声が近くなります。

茂みを割って猟犬が私を見つけます。私の身体が硬くなって行くのが分かり、そして頭の中で、
ニホンリスとシマリスの違いを浮かべます。
猟師に見つかったとて、狩猟免許を取得したぐらいだからリスの見分けはつくだろう。

「リスがいた!」
歓喜と犬を褒める声の賑やかさ。
同時に私の身体は銃弾で飛び、
絶命する私の耳へ
「アホやぁ、あれはニホンリスやで」
私の身体へ犬歯が刺さる感触で記憶はなくなりました。

#シロクマ文芸部
#小牧幸助さん