見出し画像

余計なお世話かもしれない

また人を拾った
フィクションではなく、実社会で

昨夜、お使いの帰り
徘徊する女性がおり、車道に飛び出しては
猫背の姿勢で遠くを見ている

車を路肩に停めて女性に声をかけてみた
女性は目を丸くし
「探し物がある。見つからない」らしい
懐中電灯も持たず、不自然に感じ
名前を聞いても、よそを向いて歩いていく

わたしを無視して空家の庭で右往左往する女性
とりあえず交番へ電話し
警官に引き取ってもらった

その前も、晩
黒の上下の軽装で車道に立つ男性を
危うく轢きそうになった
傘を差さない男性を歩道に寄せて会話を試みる
男性は多弁に何かを語るのだが
わたしからの問いより、何かを語っていた


6年ぐらい前だった
夜道で女性が倒れていた
街灯がない場所、草の中に

「大丈夫ですか?」応答がない
女性の口元に手を翳すと息がある

119番をし
消防署員に指示を仰ぐ

電話からの指示通り
スマホの懐中電灯で女性を照らすと
女性は近所の人で、頭から血を流しており
「私の近所の人で頭から流血してます」

近所の顔見知りが仇になった

到着した救急車が女性を車内に搬入するのだが
救急隊員はわたしへ女性の家を尋ねる
「あの家だと思います」
わたしはそこまでしか知らない

救急隊員は女性の氏名や年齢
女性の部屋のどこへ保険証があるかなどを
わたしへ聞いてくる

その頃には、野次馬などのギャラリーもいて
「普通、人の家の中まで知らないでしょう」
救急隊員は総ツッコミにあった

どんな事情があったのか分からないが
救急車は発進しない
この場で仲良くなった大学生達と
「意識がなくて頭から流血してるのに
どうして救急車は行かないのかな」

発進しないどころか、救急隊員はまた
わたしへ女性の個人情報を聞きにくる
「女性はどこへ行く予定でしたか」
知らないよ
本当に知らないことは知らない

警察が来なかったので事件性はなかった

人を拾っていいのか迷う
昨夜で5人目になる

想像を巡らせてみる

帰らない家族を探し回り
生きているのか、どうしているのか不安で
僅かな隙を作った自分を責めて
日頃の介護疲れを唇で噛み締め
行き場のない感情を頭に巡らせながら
警察からの連絡に安堵や怒りを急速冷凍し
拾われた感謝より、死んで戻ることが叶わず

前職、事務所へ
「早朝から墓地を徘徊している人がいる」
墓地の近隣住民から連絡があり
わたしが駆けつけたところ
ここへ墓地を持つお客様が、よその墓地へ座り
わたしを見るなり
「先生」

事務所へ電話をしてお客様の自宅へ連絡してもらう
30分ぐらいして連れに来た御令嬢は
わたしの前でとんでもないセリフを叩いた
疲労困憊で理性のブレーキが利かないのは分かる

わたしは咎める気がしなかった

認知症の介護は終わりが見えず
自分から言葉がひとり歩きし
今までの自分が言ったことのない汚い言葉は
「今の状況から逃げたい」
当たり前だと思う


警察に保護された女性を見つめて
「わたしは余計なことをしているのかもしれない」

わたしは自分のした事へ迷いが出て
「おばあちゃん、おやすみ!」
ワイパーで払拭するように
なるだけ大きく腕を振って見せた