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とっとこしてないネズミ

「ネズミがいる」
父の声に家族が反応した
わたしがまだ小学生で、風呂上がり

ネズミはペットショップしか見られない
珍しい生き物で
うちにネズミがいる、目が輝いた気分

早めに捕まえないと家の中で繁殖したら困る
両親が本棚の両端からネズミを挟み撃ちにする
ゆっくり本棚を動かすとき

ネズミの方から、ずんぐりむっくり
本棚の裏から這い出てきた

全身がベージュで鼻がピンク色のネズミ
まんまるでしっぽがないネズミ

「ハムスター?」
父がネズミを摘む
ネズミはだらしなく体躯を伸ばして、おとなしい
どこかの家で飼っているネズミだろう
今、思うと台所の勝手口から入ったのかもしれない

文鳥がいた鳥カゴに保護されたネズミは
丸い目できょとんとしていた

うちで預かるからわたしや弟は
行方不明のハムスターがいないか
周りに聞いておいでと言われ
家にハムスターが出たことは羨ましいと言われたが
結局、どこの家の子か分からなかった

ベージュのネズミを
トムとジェリーに因んで
『ジェリー』と名づけたいと思っていたのに
学校から帰ると、既にネズミは
『ムーミン』と呼ばれていた