自分の生き方は、自分で決める。(映画「Girl/ガール」を観て)

自分の生き方は、自分で決める。

三流コピーライターが予算のない私塾向けに作ったキャッチコピーのようなタイトルだと自分でも愕然とする。

自己決定理論が不完全であることは広く知られた事実だが、社会規範によって肩身の狭い思いをしている人にとって「自分の生き方は、自分で決める」という価値観は暴力的で、拷問ともいえよう。

だが、映画「Girl/ガール」は、社会規範の枠外であったとしても自分の意思を貫こうとした女性の強さ、美しさが描かれている

映画を鑑賞する人たちの多くは社会規範の枠内で日常生活を送っているだろう。そんな彼らを主人公の世界に引きずり出し、強烈な痛みを共有してみせる。主演を務めたビクトール・ポルスターの存在感も際立っている。

「Girl/ガール」
(監督:ルーカス・ドン、2018年)

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最近、映画を鑑賞するたび「PERFECT DAYS」(監督:ヴィム・ヴェンダース、2023年)と比較してしまう。

「PERFECT DAYS」のファンの方には申し訳ないのだけど、比較するたびに──結果的に、ということだけど──クサしてしまう形になる。どうやら僕生き様として葛藤を伴う作品を好むようだ。

「哀れなるものたち」の世界観は“おとぎ話”と称されることが多いけれど、それがフィクション的な世界観であろうとなかろうと、登場人物たちが何かを闘っている姿が胸を打つ。僕にとって「PERFECT DAYS」の平山は、「君たちはどう生きるか」の大叔父と同じようにフィクションの中で留まり、葛藤自体を放棄した存在なのだ。もちろん世の中の多くの葛藤とは不毛なものだけど、生きることに価値や意義を見出すことは絶対にできる。主体性をなくして漂うだけのデラシネに成り下がりたくはない、どんな理由があったとしても。(そういった比較を可能にしてくれた「PERFECT DAYS」に、僕はそれなりの敬意を感謝を寄せている)

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さて、今回取り上げる映画「Girl/ガール」は、ルーカス・ドン監督の長編監督第一作目となる作品だ。

主人公は、男性の身体に生まれた15歳のララ。血の滲むような努力でバレリーナを目指す一方、女性らしい身体を手に入れるためのホルモン治療が思い通りにいかず葛藤する。バレエスクールの仲間(女性であり、映画では意識的に“女性らしい身体”が多く撮られている)からは「あなたは男性なの?女性なの?」と執拗な嫌がらせを受ける。頼りたい父とのコミュニケーションもギクシャクする中、最終的にララはある行動をとる──という筋書きだ。

冒頭の平山は、自ら置かれた境遇に逆らうことなく、自分の人生を謳歌している。一方でララは、自ら置かれた境遇にひたすら抗おうと、ときには父も手を焼くほどに自分の意思を貫こうとする

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人によってはララの「意固地さ」と眉を顰めるかもしれない。事実、結果としてララのバレリーナとしてのキャリアは大きく傷がつくことになる。

だがラストシーン、彼女の表情からは、自分のくだした決断に後悔していないようにみえた。

つまりこの映画は、自身のアイデンティティへの葛藤を描いた作品ではないのだ。もちろんそこを前提として描いているのだが、ひとりの人間(とりわけ15歳の少女)がどこまで意思を表出できるのかを追いかけたドキュメンタリー的な物語といえよう。ルーカス・ドンは監督とともに脚本も手掛けているが、執筆をしながら「どんな結末にララは連れていってくれるのだろうか?」といわば抒情詩のように物語を紡いでいったのではないだろうか。

悩むことは、ネガティブな感情だとは限らない。思い詰めた結果、極端な行動に至ってしまうのが悲劇なだけで、悩みがポジティブな原動力に変わっていくことだってある。

ララは、ララなりの正解を求めていた。いつも強い意思をもって行動している。強い女性なのだと思う。

ルーカス・ドンの最新作「CLOSE/クロース」でも感じたけれど、彼は「顔(貌)」を撮るのが本当に上手い。表情というか、成長前後の軌跡を丁寧に追いかけ、刹那みせた一皮剝けた後の意思を切り取ることができるのだ。

稀有な才能、そう断言したい。

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ルーカス・ドン最新作「CLOSE/クロース」も意思の表出を感じる作品です。

大人として生きていくんだ」という主人公の意思。同時期に鑑賞した「PERFECT DAYS」の主人公・平山を引き合いに出していますが、ララやレオが示した生き方こそ、クリエイターは映画づくりで表現すべきだと思うのです。

「CLOSE/クロース」も素晴らしい作品です。ぜひご覧ください。

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