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ひきこもりの作法~繰り返される昼夜編~


必ず午前中に起床する。

つまり、「目が覚める」とは命の誕生のパロディである。

しばらくは朝日を浴びて、体の芯から目覚めを促すと共に、セロトニン(幸せホルモン、姿勢維持ホルモン)をしっかりと補充する。

朝食は摂らないか、消化に良いもので簡素に済ませる。

軽く手足を動かして、わが身の実在感を思い出す。辛うじてまだ体の動く者として、決して普通ではないその贅沢を噛み締める。宇宙によって存在を望まれた己の寵愛を祝う。

始めよければ終わりよし。一日の始めには良い行動を敷いておきたいので、ここでダラダラとネットサーフィンをやりたい気持ちをぐっと抑えて、通学、通勤者の波が引く頃合いを見計らって散歩に出掛けるか、心を落ち着かせて読書に臨む。窓越しの小さな囀りたちが心地よければ尚嬉しい。

「まごわやさしい」を合言葉に、バランスの良い食材で揃える。残酷で美しい儀式、他種族の命と融合する時間。「古い日本食」を意識すれば容易く安定する。

「いただきます」「ごちそうさま」は徹底し、恭しく合掌する。このような礼儀作法に一際重きを置く故は、社会から隔絶された身にありながらも、形から入って理性を潤し、更には人間性の錬磨を助ける為である。

芯から体も目覚めきり、一層調子の出てきた頃合い。適度な具合で「今の自分にとっての不可能」に挑戦する。良質な負荷こそが、身に持て余した能力の燻りを治し、影の身にも充実感を齎す。

「遊び」の気概で身軽に挑み、失敗さえも実在者こその褒美と味わう。そのピリピリとした緊張感、退屈させぬ高揚感、徐々にコツを掴みだし、前よりも少し記録が延びてくる面白さ。幼子だったあの頃を思い出す、その意外なまでの心地よさ。

夕刻頃には一息ついて、純粋な趣味の時間に興じる。
今日一日の疲れを労わる、まろやかな茜空。

日が沈み、原初の暗闇に占められる頃。

胃が張って支障が出ぬよう、食事は適度に摂る。

来るべき臨終のパロディに備え、丁寧に一日を畳んでゆく。一日の内省や、明日への展望が胸中に湧き出てくる、ひとつひとつを愛でながら。

就寝時刻が迫ればなるべく暗所に身を置いて、日中に得てきたセロトニンを、メラトニン(睡眠ホルモン)へと変換する。さながら生体の錬金術。深く息を吐き、筋肉の緊張を緩める。月明かりがカーテンを揺らせば尚美しい。

「門」が開かれるその刻を、例えば詩集と共に待つ。小さな橙の灯りでも点けておく。ロウソクの火なども目を癒す。一日を全うした頭には、理屈よりも情緒の方がよく沁みる。

やがて薄らぐ意識の中で、懸命に生きた者には後悔など無いことを知る。この時我々は「意識の消失」を確信しながらも、「再び生まれる」ことを確信している。

そして、明日は明日の風が吹く。

あとがき

長年のひきこもり生活の末に行き着いた、私の大まかな日々の習慣、心持ちなどを、ちょっと仰々しく味付けて、面白おかしく書き出してみました。クスっと笑っていただければ幸いですし、まだひきこもりとしての過ごし方に指標が定まらないという同志にとっても、一つの参考になれれば嬉しいです。

追記:思い付きで、本投稿の"YouTube動画版"も用意してみました。以下がそうです。もしご興味がございましたら、一度ご覧になってみてください。


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