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『奇跡の職場』:「創意工夫にあふれた現場」には「徹底した規律」が必要な理由 | きのう、なに読んだ?

JR東日本テクノハートTESSEI、通称「テッセイ」という会社がある。東京駅の東北新幹線ホームで列車を整列して待っているお掃除部隊の会社だ。テッセイは、ハーバード・ビジネス・スクールの教材となり、CNN, NHK など内外のメディアに取り上げられてきた。清掃という3K(きつい、汚い、危険)の職場だけれど、透明性と従業員のモチベーションを引き出す仕掛けがちりばめられ、7分で新幹線を清掃する技術と明るいサービスが日々進化しているそうだ。

実際、何が起きているのか。ざっと概要はこちらの記事をどうぞ。

記事の執筆者になっている矢部輝夫さんは、この変革の立役者だ。『奇跡の職場』というご著書がある。

私は昔、アメリカのビジネススクールに通ったのだけど、先日、そこのエグゼクティブMBA生(組織の管理職が、勤めながら通うMBAプログラム)のジャパン・ツアーがあり、少しお手伝いをすることになった。テッセイにも訪問させていただいたので、こちらの本に目を通した。

書籍を読んで、ハーバードの教材や東洋経済オンラインの記事と同様、現場で頑張る人たちを、矢部さんがとても大切にしている様子が読み取れた。加えて、メディアで取り上げられる「サービス」は、実は複数の課題を解決するアイディアであることに感心した。例えばホームに整列して入線する新幹線を迎えるのは、運転手への挨拶であると同時に、ホームを見通して安全確認しているそうだ。また、出口でゴミ袋を持って、降りる乗客に挨拶しながらゴミを入れてもらうのは、おもてなしであると同時に、席にゴミが置きっぱなしになることが減り社内清掃が効率的に行える工夫でもあるという。

こうした工夫は現場から出たアイディアを実際試して改善を重ねたものだ。矢部さんは、黙々と着実に仕事をする同僚をほめ合う仕掛けを入れたり、権限と予算を現場に移譲するなど、現場でアイディアを出しやすく、すぐ試せるように様々な取り組みを行ってきた。

さぞ家庭的でほんわかした職場だろう…と思ってしまうが、矢部さんはそこを明確に否定する。「規律が大事」「まずはトップダウン」が矢部さんの確固たる信念だ。

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テッセイの本業である掃除は、オペレーションそのものです。チームリーダーの命令は絶対で、掃除に全力を傾けているときは下の人が命令に反対することや、独自の考えに基づいた行動をすることは許されません。その点に関しては、例外を一切認めていないのです。また、終始一貫ブレのない指揮系統でなければ、7分という短い時間で新幹線をきれいにすることはできません。

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● 徹底した規律と指揮命令
● 絶妙のチームワーク
● やりがい、喜び、誇り  
そして、このなかで一番重要なのが「徹底した規律と指揮命令」です。この部分を徹底させない限り、チームワークもやりがいも誇りも生まれないのです。

「創意工夫にあふれた現場」に「徹底した規律」が必要?
一見すると、パラドックスに感じられてしまうけれど、とても含蓄ある見解だと思う。私の理解はこうだ。日常のルーティンでは規律と指揮命令を徹底する。ルーティン習得を通して、経験やバックグラウンドが多様なメンバーのスキル水準や行動規範が揃う。前提が揃ったところに、現場の創意工夫を促す仕掛けが機能するから、新しいアイディアをすぐに試して効果を測定でき、良さそうならすぐ他のチームに展開できる。心理的にも、行動規範が揃っているとメンバー間の信頼は高まるだろうから、新しいアイディアを試すというリスクを一緒に取りやすくなるだろう。

オペレーションの現場だから規律と指揮命令を徹底する必要があるのであって、知的生産の仕事には当てはまらない、と感じるかもしれない。しかし、私の経験では、知的生産においても規律と指揮命令は重要だ。例えば、私が昔はたらいていたコンサルティングファームでは、論理的な分析の仕方、スライドの書き方、ミーティングの進め方などに明確な規律があった。だから作業をメンバー数人に割り振っても、出来上がる分析と図表の水準もフォーマットも揃う。そうすると、議論の前提もずれにくいし、全体をまとめる時には内容に集中できる。結果、生産性が高い。

先日、ハリウッドでコンセプト・アーティストとして活躍する田島光二さんとお話しする機会があった。彼の仕事のようなクリエイティブ中心の業務でも、作業日数を見積もってその通り仕上げるとか、上長による仕事の内容確認もルーティン化されているなど、規律と指揮命令が明確になっていることに感銘を受けた。何より、そのような規律があることで「仕事がしやすい」「クリエイティブに良い影響がある」と田島さんが話していたのが印象的だった。

オペレーション中心であれ、クリエイティブ中心であれ、どのような仕事にも規律と明確な指揮命令が有効な部分と、自由闊達な創意工夫が有効な部分がある。そこを丁寧に見極め、規律が有効な部分については、それを組織内に徹底する。規律が、組織内の共通言語と相互信頼を育む。それを土台に、自由な議論や創意工夫がなされる。そういう構造だという理解に至った。

今日は、以上です。ごきげんよう。

(picture by waychen_c)




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