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最終回+あとがき「私の死体を探してください。」第37話 ※あとがきにはネタバレが含まれます。

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「ちくしょう!」

 神永進はUSBに入っていた、森林麻美の最後の遺書を読んでからそう独りごちた。

 そして、すぐに編集部の共有ファイルを開いた。確かにアンダーバーの間に730というタイトルが見つかり、クリックする。

 四ページくらい読んでから確信した。登場人物の名前から、間違いなくあの人気シリーズだ。

 名前をつけて自分のPCにファイルを移動し、共有ファイルから削除する。

 そして、神永は自分のデスクの隅に置きっぱなしにしていたスマートフォンを手にすると、震える手で池上沙織の番号を探した。

 コール音もならず「お客様のご都合により……」とアナウンスが流れた。

 神永は背筋がぞうっとした。

 立ち上がりその場にいた全員に聞こえるように言った。

「誰か、最近。池上、池上沙織と連絡取った人、いないか?」

 みな首を振った。

 池上沙織には近しい身寄りがなかったことを神永は覚えていた。盆暮れ正月に実家に帰ると言わない理由がそれだったからだ。

 電話が繋がらない池上沙織は三島正隆に殺されてしまったのだろうか? 

 神永は自分の知りうる限りの池上の知人に連絡を取ったが、返事は同じだった。

 神永は与えられた真実をどうするべきか、迷いながら警察に池上沙織のことを相談したが、大人一人が自分の意思でいなくなったのだ。あまり重く受け止めてもらえはしなかった。それは死体が見つからず遺書を書き残して、消えた森林麻美の時と同じだった。

 警察から、編集部に戻った神永は頭痛のする頭を抱えながら。ぼんやりと浮かぶ疑問に首を振った。

 果たして、森林麻美は本当に脳腫瘍で、余命いくばくもなかったのだろうか?

 少女時代の集団狂言自殺の失敗を、ずっと悔いてその希死念慮から、計画的に自殺する方法をずっと考えていたのではないだろうか?

 少女たちが死んだ七月三十日に殺されたのが、その証拠になりはしないだろうか?

 神永はぞうっと寒気を覚えてまた首を振った。

 森林麻美は、私の真実と言った。その真実の重みに、神永の頭は再びずきずきと痛みはじめたのだった。




                                       了





あとがき

 初めましてのかたは初めまして。そうでない方はいつも読んでいただきありがとうございます。星月渉と申します。いつもは小説投稿サイトエブリスタをホームベースとして小説を書いています。

 今回noteさんで創作大賞2023が開催されるということで、せっかくなので未発表の長編をこちら限定で初公開することにしました。

 この作品の着想は、他のコンテストでサレ妻をテーマにした不倫リベンジものでも書こうかなあと考えたのがはじまりでした。

 もしも自分のパートナーが浮気をしたら、うーん。私なら面倒なことは原因を作ったパートナーに押し付けて秒で逃げるなあと考えたんですよね。復讐に使う時間なんて一秒ですらもったいないなあなどと……。自分を裏切るような人間のために時間をとられたくないなあと……。

 さあ、困った。それじゃあ、全然ドラマにならないなあと思ったんです。それなら、どうしても事情があって、そのパートナーから離れることができないとしたら……。

 私の死体を踏み抜いてから、次行けよ。

 となんとも極端な発想が思い浮かんだんです。そこから、出てきた登場人物が麻美さんでした。なんだか、全然違う話になりそうなので、目指したはずのコンテストは諦めました。

 麻美さんにはもう一つの「もしも」を用意しました。

 もしも、自分のパートナーが自分の創作物に否定的な人間だったとしたら?

 これに関しては自分の経験からでてきた「もしも」かもしれません。

 今でこそ私のパートナーは私の創作活動を応援してくれていますが、最初は眉をひそめましたし、読みたいというから読ませた当時の自信作に「リアリティがないんじゃない?」という感想をくれました。

 今はとても褒めてくれますし、応援もしてくれているのですが、あの時のことはたぶん一生忘れないと思います。それくらい根に持ってるんですね。私は悔しいと力がみなぎるタイプなので今もこうして書いているわけですが、そうじゃなかったら、あの時書くのをやめていたかもしれないので、やめていたかもしれない「もしも」に対する怒りはいつでも取り出せる心の引き出しに入っているような気がします。

「もしも」あの時の状況がずっと続いていたら? という「もしも」の中に麻美さんを入れてみると、なんだかあれよあれよと伏線やストーリーが思い浮かび、このお話ができあがりました。

 楽しんでいただけたなら幸いです。

 ネタバレありの感想はぜひこちらのコメント欄をお使いいただけたらと思います。

 そして、もし、よろしければこちらに応募していただけたら読者さまの中から「ベストレビュアー賞」が選ばれるかもしれません!!

 感想をいただけたら、嬉しいです。

 ここからは宣伝になってしまうのですが、私の書籍化作品の『ヴンダーカンマー』のコミカライズが6/2(金)より連載がはじまりましたのでご興味がありましたらぜひ。
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 原作はこちらとなっております。
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 また、近々他の作品を公開する予定ですので、よろしかったら、Twitterのフォローもよろしくお願いいたします。


星月渉(@hoshizuki0)さん / Twitter


最後までお読みいただきありがとうございました。感謝をこめて。


星月渉

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