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修学旅行で国会を訪れる小学生に私が伝えていること

秋から冬は修学旅行のシーズンです。静岡県の小学生の修学旅行にはディズニーランドやスカイツリーなどが入っていることが多く、国会は子どもたちにとって人気スポットとは言えません。観光地は彼らが大人になってからも訪れる機会がありますが、政治や行政の仕事に就かない限り国会見学に来ることはありませんので、その貴重な機会を無駄にしないように私自身が直接説明するよう心がけています。

子どもたちは「古くて立派な建物」に目が行きがちなのですが、問題は何が議論されているかだと伝えるようにしています。先日、Voicyのプレミアムリスナーの皆さんに「大人の国会見学」を企画したところ好評でしたので、普段子どもたちに行っている説明を書き残しておきたいと思います。

国会の役割① 法律を決める

小学生に「国会が何をしているか」と質問すると、「政治!」とか「大事なことを決めている!」などの声が返ってきます。国会は憲法に『国権の最高機関』と書かれているので正解です。続いて「政治の中で具体的に何を決めているか知っている?」と尋ねると、勉強ができる(社会に関心を持っている?)子どもから「法律を決めている」という声が返ってきます。

法律という言葉は知っている子どもも、その具体的なイメージを持っているケースは少ないようで、法律の具体例を聞くとなかなか返ってきません。どうも法律というと罰則というイメージがあるらしく、「窃盗罪」「暴行罪」などの答えが返ってくることがあります。そのような犯罪について定めているのが「刑法」だと説明すると、関心を持った児童は大きくうなずいてくれます。

その他、消費税率を定めた消費税法や、スピード違反などの交通ルールを規定した道路交通法、義務教育を規定している学校教育法や教育基本法を説明すると、徐々に法律のイメージがつかめるようです。

法律の数についても説明するようにしています。現在、効力を有している法律は約2,150本。そのうち1年間に改正されたり、新たに制定されたりする法案の数はおよそ100本です。この数の多さには驚きのようです。国会が開会されているのは年間200日ほどですので、開会中は2日に1本のペースで法律が成立していることになります。国会議員の仕事がかなり忙しいのは、分かっていただけると思います。

国会の役割② 予算を決める

子どもたちに「法律を決めている以外に、もう1つ大切なことを決めているのを知っている?」と問いかけると、なかなか答えが返ってきません。消費税を例に「国のお金の使い方」というヒントを出すと、半分ぐらいの確率で「予算」という答えが返ってきます。予算の中身の例としては、道路や橋の建設費、おじいちゃんやおばあちゃんの年金や医療費、子どもたちに身近な学校の建設費や教科書代が分かりやすいようです。

国会の役割③ 内閣総理大臣を指名する

「法律や予算を決める以外にもう1つ国会には大事な役割があるんだけど、何だと思う?」と問うと、子どもたちからなかなか答えは返ってきません。「国で最も権限を持っている人を決めている」とヒントを出すと、「総理大臣」という声があちこちから上がります。

議院内閣制を理解してもらうために、「アメリカの大統領は国民が直接選ぶのに対して、日本の総理は国民が選んだ国会議員の中から選ばれる」と話すようにしています。時間があれば「来年の大統領選挙でバイデンさんが勝つのか、トランプさんがまた復活をするか」などと説明して、少しでも時事的な問題に関心を持ってもらえるように心がけています。

以前は「日本には陛下がおられるので大統領は必要なく、議院内閣制になっている。国会議員の中で選挙を行って最も得票した人が総理大臣になる仕組みなのだ」と説明していた時期もあるのですが、ここまでくると小学生には理解できないようなので、最近は総理を選ぶ国会議員をきちんと選んだ方が良いと説明するようにしています。

国会の役割をもう少し突っ込んで説明するなら、法律や予算案だけではなく外国との条約承認手続きや、日銀総裁などの人事の同意もあるのですが、修学旅行の説明では割愛します。

国会の主役は誰か

これら3つの役割があることを説明した上で、「国会で一番偉いの(主役)は誰か」と質問するようにしています。多くの場合、「内閣総理大臣」「天皇陛下」、まれに「議長」という答えが返ってきます。やや抽象的な質問になっていますが、私が用意している答えは「この国会で一番偉い(主役)は国民だよ。それが国民主権という憲法の3原則の1つだ」というものです。

子どもたちに伝えたいのは「私は国会議員としてバッジをしているから法律や予算を決める資格があるけど、このバッジは選挙で当選して与えられた任期の間しか効果はないんだ。政治家や政策を選挙で判断することができるのは国民なんだ」ということです。

自由に投票できるのは世界人口の8人に1人

世界中の人が選挙権を与えられているわけではありません。例えば日本のお隣の中国も北朝鮮も、それぞれ中国共産党と朝鮮労働党が統治することが憲法上規定されており、選挙がありません。選挙がある国の中でも、ロシアのように言論の自由がない国ではプーチン大統領のような独裁者が長く国を統治します。形式上の選挙は行われていても、言論の自由、法の支配、法治主義が確立していない民主主義は不完全です。

スウェーデンのV-Dem研究所によると、世界中で80億人の人口がいる中で、民主的な選挙ができる人は10億人程度だとされています(Democracy report 2023において「自由民主主義」に分類された国々の合計人口)。東アジアの中では日本、韓国、台湾。その台湾も中国からのプレッシャーを受けていて、民主的な選挙制度をいつまで維持できるか分かりません。ASEANの国々も個別に見ていくと民主主義そのものがかなり危うい。

日本の民主主義を引き継ぐために

日本の民主主義は、明治から大正、昭和初期に下地が作られ、戦後世代(子どもたちからすると、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんくらいの世代)の努力で確立されたものです。

「自分で考えて投票できるような大人になってもらいたい。テストで点数を取るよりも、ちゃんと物事を考えて世の中のことを決められることの方が大事だ」と言うと、先生方に苦笑いされます。私がこれを伝えたいと思うのは、人口が減少する中で国を守り、経済成長を実現していくのは相当に大変なことだと感じるからです。実現できるかどうかは将来の有権者である子どもたちがどのような政治家を選ぶかにかかっています。

児童たちの食いつきが良い時は、ロシアとウクライナ、イスラエルとハマスの戦争を例に国防の重要性に踏み込みます。一瞬、先生方の表情がこわばりますので、戦争にならないように外交努力をすることも大切だということは忘れずに付け足します。私の感覚では6年生の子どもたちの理解力は相当のもので、もっと現実の政治問題を持ち込んで良いと思います。

まだ投票権を持たない(しかし国民である)子どもたちに語りかけながら、政治家である私自身の使命を噛みしめる日々です。将来の有権者やその先に生まれてくる国民のことも考えて政策を実現していくことこそ、今を生きる我々政治家と大人の責任なのです。


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