不快なものを全てぶっ壊せ。
「席、譲ったらどうですか?」
左前に立つサラリーマンが話しかけてきた。
「あなたの目の前に、席を必要としている方がいますよ?」
目の前に立ってるババアのことか。脚が伸ばせなくて邪魔だと思ってたところだ。
「でも……ここは優先席じゃない」
「だとしても、こちらの方に譲るべきだ」
乗客の視線がこちらに向いている。サラリーマンの、さも自分が正しいことを言っていると決め付けた顔が気に食わなかった。そして何より、目の前のババアが席に座らせてもらうことを当たり前だと思っている顔が気に食わなかった。
「あなたには心がないんですか?」
心。いい人でいることに疲れた。心はある。自分がやりたいことをやらせてあげたいんだ。
大体この席は、長い間電車に乗って、僕がやっと手に入れたものなんだ。それを易々と……。
「そもそも、電車の中で覆面を被っていること自体」
「不快なものを全てぶっ壊せ」
サラリーマンの声に被せるようにして、僕の覆面がそう言ったような気がした。いや、もしかしたら、僕自身が……。
辺りから悲鳴が聞こえた。
気が付くと、僕は両手でサラリーマンの首を絞めていた。
恐怖なんてなかった。心地よさでいっぱいだった。
僕は微笑んだ。
「お前……不快だよ」
夜の街へ、作品のネタを集めに行く為の費用に出来ればと思います。