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周年事業でつくる冊子は周年誌?大東文化大の取り組みから考える、このタイミングにこそつくるべき冊子とは?

周年事業の一環として発行する冊子といえば「周年誌」だと相場が決まっているのですが、今回、見つけた大東文化大学の刊行物は、どうもこれとは違うようです。周年という特別なタイミングだからこそできる、特別な一冊を何にするか?そんな視点で考えたとき、もしかしたら周年誌がベストアンサーではないのかもしれません。

周年記念事業として生まれた、書道への愛が込められた一冊

今回、大東文化大学書道研究所と芸術新聞社のコラボレーション企画として発刊されたのは『38の書斎 書家が語る文化と墨縁』。これは日本を代表する書家38名を、仕事場に訪ねて取材したインタビュー集です。普段はあまり目にすることのない書家たちの制作や日常の風景、愛用品の写真なども掲載され、さらには揮毫シーンのショートムービーもQRコードから見られるとか。なんというか、猛烈な書家、そして書道に対する愛を感じさせる一冊に仕上がっています。

しかもこの冊子、無料配布のパンフレットではなく、全国の書店およびオンライン書店で販売している書籍なんですね。プレスリリースに、「現代のあらゆる社会問題や昨今のコロナ禍の影響もあり、書道文化を守り伝えることの難しさが浮かび上がってきた」と書かれており、大学の記念事業ではあるものの、書道文化の保護・継承という意味合いが色濃くある取り組みだといえます。

12月15日(金)に発刊された『38の書斎 書家が語る文化と墨縁』

大学独自の具体的なテーマをもつことの意味

大東文化大学は、国内で初めて書道学科が設立された大学であり、「書の大東」とも呼ばれる、書道とは切っても切り離せない大学です。書道が自大学のアイデンティティに直結するテーマだからこそ、今回のような取り組みができたのでしょう。

少し話がそれますが、大学の持つ理念や精神というのは、ものすごく大雑把に言ってしまうと“役に立つ”と“真理の追究”のどちらかないし両方に還元されてしまう気がします。教育・研究の目的から考えると、もちろんこれでいいんですが、そうなると差別化が難しいんですよね。そう考えたとき、今回の大東文化大のように、これら理念や精神と関連しつつ、大学独自の具体的なテーマを持っていると、大学の個性を際立たせるうえで、すごく役立つように思いました。

現に今回の取り組みは、大東文化大でしかできないし、そもそも発想が浮かばないと思うのです。こういった事実自体が、すでに「書道」が大学のブランド力となっている証左です。さらに、身も蓋もなく言ってしまえば、ブランディング視点でいうと、周年誌をつくるより、今回のような書籍をつくるほうが、よっぽど価値がある。あ、でも、注意してほしいのは、これはあくまでブランディング視点だとです。周年誌は周年誌で、自大学の歴史をまとめる大切なプロジェクトなので、すごく意義があります。

周年誌とはまったく違う、本書籍ならではの強み

本書籍と周年誌の大きな違いは、制作目的と大学の魅力の伝え方です。周年誌は、その大学の歴史を残し伝えていくことが目的になり、読まないと大学の魅力は伝わりません。でも、本書籍の場合、書道文化の普及が目的にあり、書籍の中身を読まなくても、その行為から大東文化大の魅力は伝わっていきます。「書の大東」にふさわしい活動であると。

さらに、ここが重要なのですが、周年事業で周年誌をつくることって、ニュースバリューはほぼないんです。だって当たり前だから。でも東洋文化大の取り組みは、ニュースバリューがあります。書道文化の普及という公共性があるうえ、取り組みとして意外性があるからです。そして、この取り組みは、ニュースに取り上げられれば、ブランディング観点でいうと、ほぼ成功なんです。書籍の中身を読んでもらわなくても、取り組みを知ってもらえれば、大東文化大のブランド価値が伝わるからです。そう思うと、単に周年誌をつくるより、よっぽど広く効率的に、またこの大学らしく、魅力を発信できるんじゃないかという気がします。

本書籍と周年誌は、いろいろと違いすぎるため比べること自体がナンセンスなのかもしれません。しかし、周年というタイミングに、この大学とは何たるやを表現する冊子をつくるという、ものすごく根本のところは同じはずです。大学の節目に何かをつくるとき、今回の大東文化大のような考え方もあると知っていると、より広い視野でアイデアを練れそうに思います。

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