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095_『帰れない山』 / パオロ・コニェッティ

日本の山岳小説の類は色々と読んでいて、これまでに自分が実際に登った山の記憶を重ねることもあれば、いつか登りたいと思っている山の情景を想像し、胸を踊らせることもある。

人が山に惹きつけられる理由。

それは当然のことながら一様ではないけれど、それらに共通するのは、その日に登った山、その日に歩いた道は、完全に自分だけのものであるということ。そして、誰かと一緒に山に登ることがあれば、その体験はかけがえのない共通体験として深く記憶される。

イタリアのモンテ・ローザ山群の麓にある村での、家族と友人との絆を描いた物語。

幼少時代、青年時代、そして大人になるにつれて変化する生活。それでも、幼い頃に山で遊んだ、あるいは登った記憶は忘れられることなく、そして最後には山に還っていく。

山に積もった雪が押し固められ、氷河となり山を下り、そして川となって流れていく。その悠久の時間の流れと同じように、そこで過ごした記憶は消えることなく、たとえ遠くにいても、あるいは更に離れた場所に行ってしまっても、いつまでも残り続ける。

モンテ・ローザの山々の風景描写が美しく、また家畜との生活や、季節による変化など、ありありとその景色が頭に浮かぶ。

そして、2人の少年の間に交わされる友情と、親子の絆と愛情。

生きることにおいて決して避けられないこと、避けるべきでないことは多くあり、それらについて考え行動することは最終的には自分でしなければならない。それでも、家族や友人がいるからこそ支えられるものも多くある。

純粋な山岳小説の面を持ち合わせつつも、人生における深い洞察を兼ね備えた、素晴らしい小説。


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