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やはりそこには「愛」しかなかった 〜『劇場版おっさんずラブ』感想と考察

年の瀬ですね。
機会があったので、『劇場版おっさんずラブ』を見ました。
連続ドラマの方は拝見していましたんですけど、映画は機会がなくこんなに遅れてしまいました。

うーん、本当にいい映画です。
納得の出来です。あの制作陣が丹精込めて作ったことがよく伝わる、繊細で味わい深く、素晴らしい出来でした。

感想をここに記したいんですが、全体を振り返るというよりかは私が気になった箇所を振り返る記事になるかと思います。

あ、もちろんドラマは全部見てます。何度も見ました。本当に面白くて、楽しくて、感動してしまう。最高の作品であると思っています。
直接関係ないですが、『in the sky』も『単発版』も全部見ています。

いろいろが対照的。だけど相似的なものもある。

さて、映画や写真といった映像作品はもちろんですが、音楽の楽曲等でもさまざまな作品に奥行きを持たせるために、2つの事象を対比的に例示するような対照性を用いて表現することが多々あります。

今回の劇場版おっさんずラブも、ドラマ版同様それが顕著かつ丁寧に描かれていましたね。
おっさんずラブの制作陣は本当に対比や対照性を用いて作品に奥行きを出して描くことが本当に上手です。
つくづくそれを思います。本当に感心しかない。

何が対照的かって上げ出したらキリがないのですが、一番印象に残っているシーンは花火大会のシーンと爆破された工場のシーンの2つです。

まず対比要素をあげておきましょう。
ずっと前から予定されていた花火大会。誰も予想しなかった工場爆破。
皆が待ち望み、楽しみにされていた花火大会。誰も望まない、命の危険が及ぶ阿鼻叫喚の工場爆破。
春田と牧の関係性で、意見や考え方の相違で喧嘩してしまった花火大会。お互い身を寄せ合って、愛を伝え合う工場爆破。

そんな中、相似的な共通要素もあります。
大きな火が関わっていること。
たくさんの人の気持ちが行き交っていたこと。
春田と牧は手を繋いでお互いの気持ちを確認し合うこと。

春田と牧の関係性や意見・立場の相違が連続ドラマ版とは別の形で新たに対比されていたことについても、制作陣の腕の見せ所が光っていました。

夢があり新たな目標に向かい突き進む牧と、その影でそれを終え牧との将来のことしか考えていない春田。

今作は、連ドラ版と真逆で、恋愛的にも仕事的にも春田が牧を追う形になっていたのも対照的ポイント。本当に芸が細いです。

ただの春田と牧のイチャイチャ映像にせず、新たな登場人物も入れつつこんなに新しくストーリーを展開したことが素晴らしいです。
黒澤部長の記憶喪失も物語の奥行きを演出する一因でした。記憶を失っても、何度だって春田に恋をする。
黒澤だけではありませんが、対比的と共通性の間に確かに物語に深みがありました。

本当につくづく思うんですが、おっさんずラブの制作陣は芸が細かいんですよ。
ただでさえ微妙な揺れ動く人の心情や人柄、や関係性の描写が上手なのに、こうやって対照性と共通性を用いて内容に奥行きを演出するの上手すぎます。

さすがだなあ、というのが第一の感想でした。
そういえばラストも対照的でしたね。何もかもが。
でも、春田と牧はもう大丈夫です。
正真正銘、もう“この物語”は「THE END」なんだなと思えました。

武川はそれでいいのか?も解決

実は私、あまりにも劇場版がSNSで話題になり過ぎていたし、公式からのネタバレも多々あったりでストーリーの大筋は知ってたんですよね。
意図せぬネタバレを多々喰らっていました。

まあそれはこういう形で昇華され、素晴らしく楽しめたのでよかったんですけど。最後の最後まで納得できなかったことがあって。

武川の去就ですよ。
牧と別れ、元サヤを迫っても拒否され、また独り身。周りはみんな幸せなのに、どうするの…という。(まあ黒澤もなんですけど。)
牧はもちろんですが、武川も武川でリアルすぎて連ドラの時は見ているのが辛かったんですよね。
実際には武川みたいな人は多いと思うし、心情を察したらあまりにも悲しいことがありました。

だから、最後の話を噂で聞いた時、黒澤と武川の振られた者同士でくっつく、みたいなのが納得できなかったんですよね。
余り物同士くっつけとけ精神みたいなものがそこにはあるんじゃないの?って思っていました。

でも、違いましたね。実際に見てみれば印象が変わりました。杞憂、穿った見方をしすぎでした。
武川のスタンスは、「愛されるよりも愛したい」んですよね。(ちょっとふざけてましたが…。)

きっかけや過程はどうであれ。本当に愛が深い人です。
だから春田に振られて傷心の黒澤の現状と、春田の気持ちを尊重するその気高い黒澤の心に惹かれたのだと思えば納得できます。(連ドラ最終話参照。)
押せば付き合えるだろう的な下心もあったと思います。
年下の牧と付き合ってたから、年下のイケメン好きかと思ったらそんなこと別に明言されてるわけじゃないですし。

とにかく人を愛したい人です。
どこまでも愛が深い人なんだと、武川のことをやっと理解できました。
いや、連ドラ版から冷静に見たら描かれてはいたんですけど、劇場版で明確になりました。

あと何より、部長と武川のその後はハッキリ描かれていないのもポイントです。
2人のことは描かれていません。受け手の想像の余地を多く含んでいます。
今度は黒澤が、彼が春田にしたように、愛を試されればいいし、愛をアプローチされる側になる。
一方的じゃなくて、お互い歩み寄る愛の形もいいですね。それこそ大人の恋愛っぽい感じで。

よって、武川問題も個人的には納得できたいい作品だったと思います。

「Revival」主題歌にピッタリすぎ問題再燃

いやほんとにこれをつくづく思うんですよ。
本当にスキマスイッチさんの「Revival」。
春田と牧のことを歌っている、もう「おっさんずラブ」のために作られたんじゃねえかというとても素敵な曲です。

でもこの曲は、元はスキマスイッチさんのアルバム収録曲で、「おっさんずラブ」とは関係なく意図せず作られたものだそうです。

信じられません。
私の心がそう言っています。

でも現実はそうなんですよ。
後付けの主題歌なんです。
でも絶対おかしい。だから私はこんな仮説を立てました。

それは、この曲を聴いた制作陣がある程度のインスピレーションは受けて、ドラマが作られていったんじゃないかという説です。(意図の有無は関係ない。)

私これ結構あると思うんですよね。
おおよそのプロットはあったとしても、第一話の段階から第七話まで撮ってあるわけじゃないわけですから、演者がストーリーに肉付けをしていく過程で春田と牧が“「Revival」っぽく”仕上がっていった。

あると思いませんか?
春田役の田中圭さん然り、牧役の林遣都さん然りかなりの体当たり系の演技派俳優です。黒澤役の吉田鋼太郎さんやちず役の内田理央さんも同様ですね。

登場人物が制作陣の意向を汲んで、“それっぽく”登場人物が仕上がり、私たちの心に響いた。
これはかなりあると踏んでます。

あと、劇場版は「Revival」の2番の歌詞にかなり寄せて制作されたと思いますね。
これは揺るがないと思います。花火大会然り、歌詞を見れば一目瞭然です。
歌詞に合わせて作ればこんなに素敵な調和とエモーショナルが訪れるんだなと、連ドラ版とはまた違う味わい方ができましたね。

いやはやとにかく「Revival」、本当にいい曲ですよ。これほど、これぞ主題歌!って感じの主題歌ってありますかね?
なんでこんなに心に響くんだろう?って何度も考えました。
やっぱり歌の作り手であるスキマスイッチさんの力も大きいですよね。私もスキマスイッチさんの好きな歌多いので、そういう要因もあるかもしれないです。

ちなみに私が好きなスキマスイッチさんの曲は「奏」と「未来花」です。
本当にいい曲なんですよ。どっちも、本当に心が暖かくなる名曲です。

でもやっぱりおっさんずラブは「Revival」。
曲自体も素晴らしいけど、この曲のおかげでドラマも映画もとても引き立ちました。本当に素晴らしい曲です。

こういう魅力的で心に響く楽曲を制作できるスキマスイッチさんはアーティストとしてさすがだとしみじみ思いますね。
私も大好きです。

とにかくおっさんずラブは「愛」の物語

愛しかない。
それだけです。

おっさんずラブは「愛」の物語である。
このことは、声を大にして言いたいです。
いろいろ要素はあれ、話題はあれど、とにかくこの言葉に尽きると私はしみじみ思います。

愛って一口には言えません。
いろんな人と、いろんな人たちの、いろんな愛の形や愛の色があります。
それをこんなに余すことなく表現する制作陣に屈服です。

愛は本来、あったかくて優しいものです。
「おっさんずラブ」でいろいろな人のいろいろな愛を私たちはそこに見ました。

どれもいろいろな形で、深くて、色味があって、いろいろな音がしました。
全部それは、真実の愛でした。

それに触れたから、私たちの心はこんなに優しくなれるのだと思います。
だからこんなに、たくさんの人の胸に響いたんだと思います。

牧にどんなに感情移入できるほど魅力的なキャラクターでも、春田がどんなに愛おしくても。どんなに演出や音楽、ストーリーが良くても。
結局はそれに尽きます。

それもひとえに制作陣の愛なんだとも思います。背景にはさまざまなことが背景にはあったかと思いますが、いろんな愛を描こうというメッセージ性がなければこんな素敵な物語はできないと思います。

だから、全部トータルで「愛」の物語なんだと言わざるを得ません。
本当に素晴らしい作品です。

そして最後に思うこと 〜良いものを良いって思えるって素敵だな

これ一番に思うんですよね、最近。

この「おっさんずラブ」みたいに、作り手が散りばめたさまざまな表現を、ひとつひとつを拾って感じられること。
張られた伏線を回収できること。
料理に入れられた隠し味を理解するかのように、深くおいしく味わえること。

これこそ受け手に与えられた至高の喜びではないでしょうか?
つくづく思います、「鑑賞」ってこういうことだなって。

おっさんずラブは改めてそれを認識させてくれました。本当に、作り手が真心込めて作ったものは、必ず絶対に受け手に届きます。
必ず良いものっていうのは、伝わるべき人に必ず伝わります。

そう思いました。
やっぱいいものは、いいですね。
しみじみとそう思いました。
これからも良いものを味わって生きて行けたらいいなあって思えました。

素晴らしい映画でした。
そしてやはり、「おっさんずラブ」は最高です。
そう言わざるを得ません。
心に響くってこういうことを言うんだなあって思います。

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