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SF映画『コンタクト』は難しい?

アメリカのSF映画『コンタクト』を観ました。本作はSF作家カール・セーガン(1934~1996)の原作を映画化したもので、1997年に公開されました。

監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのロバート・ゼメキス、主演はジョディ・フォスター。そう聞くと、猛烈にメジャー感のある映画のように思えますが、まったくそのようなことはありません。

出生時に母親を亡くした主人公エリーは、いつか母と再会できることを夢見て少女のころから天文学とハム(アマチュア無線)に傾倒し、やがて電波天文学者となってSETI(地球外知的生命体探査)の道を進みます。そしてある日、エリーのもとに宇宙からのメッセージが届くが……というストーリー。

「お涙頂戴」映画のあらすじのようにも思えますが、この映画に「愛!」「 感動!」みたいなものを期待するときっと裏切られます。物語の序盤はSETIという結果を約束できない不毛な行為の苦労が描かれ、中盤以降は本作ならではの独特のテーマ設定に居心地の悪さを覚えて「なぜそうなる」と感じるかもしれません。

かといって「意外な地球外超生命と出会ってスゴイことが起きる!」といったお話でもありません。本作で描かれるのは、宇宙からメッセージが届いたことに対して「人々はどうするか」。ですから、SFに対して「戦い!」「勝利!」みたいなものを求める人にもまったくオススメできません。

本作が公開された1997年という時代は、「1999年」という終末を目前にしたアメリカにおいて"UFO熱"が最も高まり、そして2001年の"9.11"で潮が引ける少し前の時代です。"UFO熱"といっても、その実態は外敵と政府の暗躍を空想する"陰謀論"。本作はそうした陰謀論を背景にして当時ヒットしていた『Xファイル』とは逆に、"熱"を冷ます方向性を持った作品といえます。

ただ、おそらくアメリカではスタンダードかつメジャー路線のヒューマンドラマとして観られたと思われる本作ですが、日本人には少し想像しにくく見方が難しい部分があるのです。

ジャンルとしてはSFに属しますが、遥か未来を描いたものとは違って物語の舞台は現代のアメリカです。当然、その背景となるアメリカ社会を知っているか否かで見方が変わります。この作品を誤解なく観るために、特に意識しておく一番のポイントは「信じること」に対する日米の差です。

信は理解なり?

本作の主人公は前述のように天文学者エリーですが、もうひとりの主人公といえる主要人物として宗教家のジョスが登場します。この2人を通じて、アメリカ社会における科学と宗教の関係が語られます。

少し前まで、日本から見たアメリカ像は、なにより「自由の国」であり、そして「ヒーロー大好きの国」というイメージでした。しかし、アメリカの本質は「信仰」にあります。

日本社会ではあまり宗教が受け入れられず、むしろ宗教・信仰は「あやしいもの」として扱われる傾向があります。しかしアメリカは逆で、信じるものの違いはあっても「信仰があるのが当然」で、むしろ信仰がないことの方が怪しまれることのある社会です。

ただしこれを「無宗教差別」のように捉えるのは早計で、無宗教を怪しむことには合理的な理由があります。信仰に伴う「行動規範」がない(と見なされる)人々は行動を予測しにくいため、他人から不安視され、信用されにくくなるのは、ある意味では当然のことだと言えます。

そして無宗教の日本人は、日本人同士お互いを予測できないからこそ不安視し合い、過剰な「ことなかれ」主義が蔓延しやすいと考えられます。また、同じ信仰を持つことで得られる「お互いへの信頼」がないからこそ、それぞれが孤立しやすいという側面もあります。

逆説的に捉えれば、信仰によって得られるものは「信頼できる仲間」や「過剰に他者に気を遣わなくていい日常」と言えますから、世間一般に居場所を失い、孤立した人々が宗教に絡めとられていくのはごく自然なこと。「神なんていない」「御利益なんてない」と言ったところで簡単に引きはがせるわけはありません。

「一丸となって突き進む」ために宗教は都合がよく、日本でもアメリカでも、古くから政治、特に保守主義に利用されてきました。日本では保守政党が主に宗教を活用していますが、アメリカでは民主党と共和党の双方が宗教を尊重しているため二大政党が成立している側面もあります。

そして、宇宙からのメッセージは「地球外生命との接触」を想定せざるをえないため、「政治マター」とされます。エリーは個人として資本を集めてSETIの活動を続けてきたにも関わらず、ようやく届いた「宇宙からのメッセージ」は否応なしに政治の手に取り込まれ、科学と政治・宗教との軋轢に苦しめられます。

本作は「もし本当に宇宙からメッセージが届いたら」をシミュレーションしたような作品であり、日本の作品で言えば「シン・ゴジラ」に近い作品だと言えるでしょう。そして、両作品で描かれるものがまったく違うことこそが日米の差の現れなのかもしれません。

もちろん『コンタクト』はもはやかなり古い作品ですから実際には比較に耐えられないのも確かです。ただし「もし、今リメイクされたら」という気持ち、"リメイク・フィルター"をかけて観れば、今でもそれなりに楽しめる作品だと思われます。なにより、アメリカは今も変わっていませんからね。

(おしまい)

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