ソ連をソフトランディングさせたゴルバチョフ氏の死去

ゴルバチョフ元ロシア大統領が亡くなりました。若い人にとっては歴史上の人でしかないでしょうけれど、中高年の人間にとっては、ソビエト連邦の良い意味でも悪い意味でも終わらせた人です。

良い意味では、冷戦構造の中で発展が完全に行き詰っていたソ連を、グラスノスチとペレストロイカで西欧諸国になんとか食らいつき、共産党支配が崩壊してでもソ連邦の支配地域を解放したと言えます。90年代はエリツィン政権の元で厳しい経済状態でしたが、2000年代以降のプーチン政権下における資源価格高騰の波に乗って発展して行ったのは、間違いなくソ連が「前向きに」崩壊したから出来たことです。

一方、悪い意味ではソ連が世界をアメリカと二分していた時代から比べると、冷戦崩壊後のロシアはその他大勢の新興国の一つに過ぎない状態にした立役者でもあります。かつての共産党支配を懐かしむお年寄りや、プーチン支持層、さらには大スラブ主義を掲げるような急進的国家主義・民族主義者にしてみたら、ゴルバチョフ氏はソ連・ロシアを弱体化させた国家的裏切り者でしかないでしょう。

ゴルバチョフ氏の死去により、1980年代末の冷戦崩壊時に各国の指導者だった人たちは皆亡くなりました。

アメリカのレーガンは2004年に、イギリスのサッチャーは2013年に、フランスのミッテランは1996年に、日本の中曽根は2019年に、西ドイツのコールは2017年に亡くなっています。それだけ年数が経ったということです。

それだけの時間が経過しながらも、今のロシアは巡り巡って再び西側諸国と決定的な対立状況に陥ってしまいました。ロシアの現況は、ソ連が世界の半分に影響を持ち、東側諸国を率いていた冷戦時代を取り戻そうとしているようにも見えます。プーチンから見たらゴルバチョフはかつての裏切り者でしょうけれど、ゴルバチョフにしてみたらプーチンはロシアの自由を捨てた愚か者でしょう。

後になって判明した、冷戦時代のソ連がアメリカが思っていたほど強くなかったという事情は、共産主義経済の決定的な失敗を歴史的に証明しました。ゴルバチョフが出てこなくてもソ連は間違いなく崩壊していたでしょう。

ゴルビー以前、アンドロポフやチェルネンコの短期政権よりもさらに前の、ブレジネフ時代の時点で、既にアメリカによる軍事力増強と、そして西ドイツと日本が牽引する経済発展に付いていくことが出来ず、東側諸国全体が西側との大きな格差を付けられていました(例外は鄧小平が復権した中国で、改革開放路線により発展のレールに乗ったところでした)。

ソ連自体が東欧各国の窮状を救えなくなりつつある中で、ソ連が連邦内や東側諸国を締め上げ続けた状態で急な破滅を迎えると、ひょっとしたら破滅的な被害がソ連邦諸国や周辺地域に及んでいた可能性もあります。

内戦になればそれこそ核兵器を巡っての争いにもなりかねませんでした。ロシア国内における共産党勢力によるクーデターはあったものの、連邦諸国自体は平和理に独立国家共同体(CIS)に移行できたのは、事前にソ連の限界を覚悟していたゴルバチョフ氏による手腕もあったと思います。

いわば、ゴルバチョフにより、ソ連や東欧各国はソフトランディング出来たと言えます。

「今やソ連や社会主義諸国は西側と大きな差が存在し、このままではもうダメだ」
とジワジワと思わせていたことで、各国の指導者の諦めもゆっくり醸成されたとも言えます。それを理解できなかったルーマニアのチャウシェスクのような独裁者は、東欧革命において唯一の処刑を受けましたが、ゴルバチョフ氏はモスクワで寿命を迎えました。

一度ソフトランディングしたはずのロシアを、再び暴風雨の中に離陸させたような状況に追いやったプーチンは、どのような最期を迎えることになるでしょうか?

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