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ドーナッツの穴を探し求める日々⑨産後とこれから(完結編)

色々なもので穴を埋めながら、適応障害で内服した後に妊活を経て、私は子どもを授かりました。
息子が生まれた瞬間は、間違いなく人生で一番嬉しく感動した日でした。
それからも初めてがたくさんあり、息子はたくさんの喜びをくれました。

産後は気を付けていたけど、予想していなかったコロナの流行などもあって、産後うつ状態になってしまいました。
子育ては今までやってきた努力の方法では、できませんでした。
辛い妊娠期間を経て出産し、産後は授乳をし、育休中は24時間愛を注ぎ続けたけど、私には懐きませんでした。
言葉の言えない赤ちゃんの頃から息子は私の抱っこよりも夫に抱かれている時の方が安心している様子に見えました。
男の子であったことと、生まれた頃の顔が私よりも夫に似ていたので、その時には安心しましたが、成長に従って、中身が私に似ているように感じられて、怖くなりました。

夫とはずっとすれ違いの生活だったのが、コロナ禍で夫の飲食の仕事は休業になりました。
夫は相変わらず陰謀論にはまっていたので、コロナでもあらゆるネット上の情報を信じ込んでいました。
私は普段の状態であれば、何が正しい情報か自分で判断ができたと思いますが、未曽有の感染症に産後うつの状態で、赤ちゃんを守らなければならず、適切な判断ができなくなっていました。
約1年間、夫は毎日のように買い物に出かけるのに、私は外の空気を吸いたいと頼んでも一歩も外に出させてもらえませんでした。
夫の仕事を何とか続けられるように、小規模事業者持続化補助金を申請しようと話し合いましたが、申請に必要な書類は全て私に丸投げでした。
時短営業の協力金の申請も毎回私がしなくてはなりませんでした。
もともと私のやっていた夫の仕事の経理は、子どもを授かった場合にはもう手伝わないと話あっていたはずなのに、何度話しても夫が自分でやることはありませんでした。
他にも細かいことは色々あり、夫のことはもう好きだとは思えなくなりました。

そんな状態で育休は終わり、職場に復帰、ワーママになりました。
復帰から約1年は、ほとんどワンオペで、まだ夜間の授乳もしていましたが、ワーママってきっとみんなこんなものなのだろう、家から出られなかった時よりは、自分だけの時間が通勤や昼休憩などたくさんあって嬉しい、そんな気持ちでした。

無理をしていたのでしょう。復帰から2年目の夏、家族でコロナに罹りました。
10日間の療養を終えた後、後遺症のブレインフォグに悩まされました。
このまま今の仕事を続けていくのは、やっぱり無理かもしれない…。
出産前に始めた短大の講師の仕事の方が、まだ病院よりも安心して働けていたので、大学の求人募集を見るようになっていました。

何となくしっくり来ず、転職を決めるほどの決め手には欠けると思いながら、今後の進路について考えていたある日、私はやってみたいこと、これだって思えることを見つけました。

やりたいと思えることを見つけた時、どうなるかと言ったら、やっぱり私はまた軽躁のような状態で、一気に物事を進めてしまいます。
モデル事業への熱狂的なアプローチ、事業計画、Twitterのアカウント、仮のホームページ作成など、気付いたら出来上がっていました。

そして秋、今度は盲腸で入院することになりました。今の仕事は自分の体を犠牲にしないと続けていけない。そこまでして続けたい仕事ではない。完全に心が折れた出来事でした。

私は退職し、10年間必死でしがみ付いてきた仕事を手放しました。
考えてみれば、自分で始めたものを辞めるという大きな決断をしたのは、初めてだったのかもしれません。
それまでに何度も上司と業務内容の調整を相談していました。
対応してもらえたこともありましたが、何度相談しても改善はしてもらえない部分もありました。
自分だけがワガママにはならないように、患者さんファーストであるようにしながら、部内の他の同僚もみんなが困っていることに対して、問題提起し改善策を提案してきました。対応してもらえたことに対してはいつも感謝を忘れませんでした。
交渉しても改善しなければ、そのうち退職するという選択肢もずっと自分の中では視野に入れていたし、上司にも伝えてきたつもりでした。
でもいざ退職の相談をするととても驚かれましたが、話は一気に進みました。引き留めてほしい気持ちもほんの僅かあったかもしれませんが、退職の意向を伝えてからは呆気ないものでした。

仕事でいっぱいいっぱいになっていた私に、また自分と向き合う時間ができました。今も仕事を詰め込もうと思えば、詰め込めるけど、一旦ここに留まって、進むべき道をちゃんと見極めて進みたい、そんな気持ちでいます。

私は今まで、ずっと次の目標を探してきました。
高校受験、大学受験、国家試験、就活、結婚、妊娠、出産、育児、職場復帰…。
ところどころ体調は崩しましたが、努力すれば叶えられそうな現実的な目標を設定してきたことで、大きな挫折はなく努力が実ってきました。
努力ではどうにもできないこともあるし、努力をするのが難しい人もたくさんいるのは分かる。
あるものを大切にする、もうすでに十分恵まれている、足るを知った方が良いというのもよく分かります。
けど、欲しいものは、努力すれば手に入れられるものがある可能性のあるものならば、手に入れる努力をしてみた方が良い、それが私の根底にありました。
体調を崩すほどまでの努力をした方が良いと思うようになってしまっているのは、認知の歪み、誤った認知があると思います。

このまま行くと、次は自分の叶えられなかった夢を子どもに託すのかもしれません。
でも私はそうはなりたくない。
私は自分で自分の道を歩みたい。
子どもには子どもの道があって、ちゃんと道を切り拓いて子ども自身が歩んでいけるようにする力は育みたいけど、道を勝手に作ってあげたり、邪魔するようなことはしたくない。
そのために今私は無理やり埋めてきたものは何だったのか、本当に必要なものだったのか、一旦全部取り除いて確かめたい。

みんなの心には穴はあるのかな。穴のない人もいるのかな。
両親の心に穴がなければ、穴のない何かだったのかな。

でも全てが順風満帆な人なんていないよね。
どこかでは叶わなかった夢があるよね。
一度も失恋していない人なんていないよね。

いつもたっぷりのクリームで満たされているシュークリームの人もいるのかな。
でもシュークリームよりドーナッツが好きな人だっているよね。
シュークリームって食べにくいしね。
クリームたっぷり入り過ぎてたらこぼれちゃうしね。
クッキーは美味しいけど、落としたら割れてしまうよ。
ドーナッツは割れないからね。
チョコレートは夏は溶けるしね。
どんなに美味しいお菓子たちにだって欠点はあるんだよね。
とーっても長い考え事をしている間に、お腹すいちゃったね。
おやつにしなきゃ。

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