舞埋マイワールド 第8話

今日も沢山の他人という私の世界が舞い埋もれている。

―昼―

<小説家君の家>

小説家君「……」小説カキカキ

小説家君(はあ駄目だな。これじゃあ一番売れる小説どころか、無個性の小説で終わりそうだ。余命一年ちゃんの詩の様にせめてユニークさが欲しい所だ。でも一応オンリーワンの作品のはずだからこれでもいいのかな……)

小説家君「筆の進みも悪いし、気分転換に散歩して詩でも作るか」

<公園>

小説家君(ここで詩を書こう)とことこ

小説家君(陸を求め 空を求め 海へ還る ペンギン……)

小説家君(まあまあの出来だな。帰って修正するか。忘れないようにメモ帳に書かなきゃ)

小説家君「陸を求め 空を求め 海へ還る ……」カキカキ

動物ちゃん「その名はペンギン」ペンギンモード

変人ちゃん「私はヘンジン」

小説家君「え?!」

陸を求め 空を求め 海へ還る その名はペンギン 私はヘンジン

変人ちゃん「やったね。詩が完成したよ小説家君、動物ちゃん」

小説家君「う、うん」

動物ちゃん「三人寄れば文殊の知恵だね」

変人ちゃん「三人じゃないよね、動物ちゃん今はペンギンの姿してるから」

動物ちゃん「そうだった。今日はペンギンモードなんだ」

小説家君(なんだよこの展開は、詩のネタが被った。いや変人で韻を踏んでるからこっちの方が上かも)

変人ちゃん「それはそうと動物ちゃん、今日の君は何ペンギンなの?」

動物ちゃん「有名どころのクマペンギンだよ」

変人ちゃん「クマペンギン初耳かも、聞いたことないよ」

動物ちゃん「それはそうだよ、だって私が今さっき適当に名前を考えたんだから」

変人ちゃん「有名どころを適当に考えたのか、それは凄いね」

小説家君(はあ、落ち着け。ペンギン以外の動物にすればいいだけだ)

小説家君(地を求め 風を求め 水を求める 気高きガチョウ)

小説家君(これだ、早く書こう)

小説家君(地を求め――)メモメモ

動物ちゃん「昨日はガチョウの姿をしてたんだ」

小説家君(え?!)

変人ちゃん「昨日はずいぶんと美味しそうな姿だったんだね」

動物ちゃん「ふふ、変人ちゃんになら食べられてもいいよ。食べる?」ペンギンモード

変人ちゃん「うーん、今は不味そうだからいらない。」

動物ちゃん「えー!」ガーン

小説家君(ガチョウ……また被った)

変人ちゃん「それで明日は何の動物になる予定なの? 動物ちゃん」

動物ちゃん「いつも通り人間を目指す予定だよ」

小説家君「はあー」

変人ちゃん「?」

動物ちゃん「?」

変人ちゃん「元気なさそうだね小説家君」

動物ちゃん「どうしたの?」

小説家君「ナンバーワンに成れなくても、オンリーワンには成れると思っていたんだ。でも小説や詩を書いて気が付いた。ナンバーワンの作品も簡単には作れないし、オンリーワンの作品だってそう簡単には作れないんだ」

変人ちゃん「オンリーワンになるのも大変なんだね」

動物ちゃん「それは分かるな。私が変身できる姿は今この星に生息する動物の姿だけだからね。未知の生命体にだけはなれないんだよ」

小説家君「小説書くの止めようかな」

変人ちゃん「引退するの?」

動物ちゃん「私はしないよ」

変人ちゃん「ふう、それは良かった」

小説家君「例えオンリーワンの作品を作れなくても、こんな自分でも既にオンリーワンなんだから、それで納得すればいいよな」

変人ちゃん「う~ん、手を抜くためのオンリーワンで止まるのはダメだと思うよ」

小説家君「……」

動物ちゃん「そうそう。本気でオンリーワンを目指すのと、ナンバーワンになるのが面倒くさくて、楽をするためにオンリーワンを目指すのは違うよね」

小説家君「……そうだよね。やっぱり書くしかないか」

変人ちゃん「ねえねえ、三人で一緒に詩を作ろうよ」

小説家君「いいよ」

動物ちゃん「じゃあ三人と一匹で作ろう」

変人ちゃん「一人多いよ動物ちゃん」

動物ちゃん「あッ!」

小説家君「それじゃあ二人と一羽で書くぞー」

動物ちゃん「おー」

変人ちゃん「おー」

空を飛び 陸を走り 海を泳ぐ 摩訶不思議な水

今日も沢山の私という他人の世界が舞い埋もれている。

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