舞埋マイワールド 第4話

今日も沢山の他人という私の世界が舞い埋もれている。

―朝―

<小説家君の家>

小説家君「はい、いらっしゃい。余命一年ちゃん」

余命一年ちゃん「おはよう小説家君、お邪魔します」

小説家君「じゃあリビングで、お互いの詩を読もうか」トコトコ

余命一年ちゃん「うん」テクテク

<リビング>

小説家君「はい、これが僕の詩だよ」

余命一年ちゃん「うん。はい私の詩。タイトルは『四十オクビョウ』だよ」

小説家君「どれどれ」

『四十オクビョウ』

時間を疑わず欺かれる。
時間を信じて騙される。

千年生きても時間が足りない欲。
千年では長すぎてしまい死にたくなってしまう血走る肉。
四十億秒でどれだけの歳月を生きることが出来ると思いますか。
秒単位では生きようとしないのが人間だ。
人の曖昧な感覚だけでは正しく時を計れない。

四十億秒の時間でいつまで生きられる。
二十数年しか生きられないから、明日を絞り出せ。
四十億秒の命に騙されて生きる。
短く長く揺れ動く時間の体感。


四十億の憶病がいつも心に迫っている光景が見える。
百年前の人も百年後の人も今の人と同じ気持ちだろう。
いやそれは危うい結論、確かめなきゃ同じかわからない。
過去には過去の 未来には未来の 違いがあるはず。
百年の差を鵜呑みにしてたら今の感情だって嘘かもしれない。

四十憶病に染まって一体何ができる。
身動きできないままで終われるのか、二十年を無駄にするな。
四十憶病の心で欺いて生きる。
強く儚く砕け散る人間の認識。


時は生死の病か、生死が時の病か。
分からなくてもただ生きる。
正しくても生きるだけ。
間違えていても生きるしかない。
それぞれの違う今を生きてる。

四十憶秒の姿に変わって生きるのか。
定められて生きる訳ではないから、自由の時間を……。
四十億病に侵された命と心がある。
二十年しか生きられなくても、次の一秒を振り絞れ。
どこまでも生き抜く。

小説家君(読み終えた、感想を紙にまとめておこう)カキカキ

小説家君「ふー僕は読み終えたよ、余命一年ちゃんは?」

余命一年ちゃん「ちょっと待って、良かった所と悪かった点を紙にまとめるから」カキカキ

余命一年ちゃん「……よしできたと、どっちから感想述べる?」

小説家「じゃあ僕からで。この詩は余命一年ちゃんの今までの詩の中でも、一二を争うくらいに好きかな」

余命一年ちゃん「本当? それは嬉しいな」

小説家君「うん、良くできていると思うよ。二つの視点から読めるようになってるよね。そのおかげで一応、二度味わえる構成にもなってるね。それがこの詩の一番の深みになっていると言っても過言じゃない。そしてテーマも分かりやすいかな。あとは億秒と臆病の同音を使った表現の仕方も絶妙だね」

余命一年ちゃん「へへ、ありがとう」

小説家君「それで気になった点も色々とあるけど、いつも通り三つだけあげるよ。一つ目はタイトル」

余命一年ちゃん「やっぱりか、もしかしてしっくりこなかった?」

小説家君「うん、カタカナで二つのオクビョウの意味を含ませたい気持ちは分かるけど、僕はあまり好きじゃないかな。『四十オクビョウ』、形が歪に見える」

余命一年ちゃん「数字とカタカナのパターンも考えたけど、私もどっちもしっくりこなくて。どうすればいいかな? 別のタイトルをやっぱり考えた方が良いかな?」

小説家君「うーんそうだね、ストレートに時間の億秒を使えばいいと思うよ。そうすることで怖がる意味の臆病が詩に出てくると読者は想定しにくくなるはずだし、出て来た時に同じ読み方だったのかってインパクトをより与えやすくなると思うよ」

余命一年ちゃん「あ~成程。カタカナのオクビョウを、伏線のような感じで張ったつもりだったけど、そういう考え方もあるのか」

小説家君「二つ目は『四十億秒でどれだけの歳月を生きることが出来ると思いますか。』の部分かな。ここだけ敬語で全体から少し浮いてるようで、気になった」

余命一年ちゃん「そこは詩の重要な部分だよって強調するために、あえて敬語にしたんだ」

小説家君「うんうん、目的がちゃんとあったのか。でも敬語だけで強調させるのは少し無理そうだよね」

余命一年ちゃん「た、確かに。敬語で強調は無理があるかもね」

小説家君「でも一応同じ意味の文章がまた出るから、何だかんだでそこで少しは強調はできてると思うよ。より強調させたいのなら、これをそのままタイトルにしちゃうのもありかもね」

余命一年ちゃん「それも考えたんだけど、タイトルが長すぎるような気がして、使うのは避けたんだ」

小説家君「あ~確かに。じゃあそこは自分でじっくり考えて選ぶしかないね」

余命一年ちゃん「どうしよ」

小説家君「じゃあラスト」

余命一年ちゃん「はい」

小説家君「三つ目は詩の最後の方に出る二つのオクビョウを合わせた造語。まあ言いたいことは分からなくはないかな。でも読み手の判断が大きく割れる場所になることだけは覚えていた方がいいと思うよ。誤字だって思われる場合もあるからね」

余命一年ちゃん「変えた方がいいかな?」

小説家君「変えなって意味で言ったわけじゃないよ。変える必要は全くない。このままで大丈夫だよ」

余命一年ちゃん「うーん、誤読も考慮してあの位置あの組み合わせの文章にしたんだけど、小説家君には効果がなかったからな。大丈夫かな?」

小説家君「誤読狙いか。文字の形が比較的似ているし、文脈的になんとか脳が上手く補完しそうだから、読者も勘違いして読んでくれると思うよ。だから読者はこの詩を二度味わえるはずさ」

余命一年ちゃん「そう言ってくれると心強いな」

小説家君「言いたいことは言い終えたかな。他に気になったことは紙にまとめてあるから、これを読んでね」

余命一年ちゃん「ありがとう小説家君。さっそくタイトルを考え直そうっと……その前に今度は私が小説家君の詩に感想を言う番だね」

小説家君「辛口で頼むよ」

余命一年ちゃん「うん」

今日も沢山の私という他人の世界が舞い埋もれている。

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