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白石戦で不二が手塚ではなく越前の言葉で本気になった理由

越前VS不二も接戦の末に決着を見ましたが、個人的に越前と不二の関係性を旧作から読み直していて引っかかった部分がありました。
それは全国大会準決勝の白石戦でマッチポイントまで追い込まれた満身創痍の不二を相手に越前は「ねえ、本気でやってよ」と発破をかけています。
不二は「そうだね、このまま負けたんじゃ、なんか悔しいや」と本気を出して白石を圧倒するのですが、このシーンはよくよく見たら疑問です。
なぜ不二は手塚ではなくリョーマの言葉によってこの時動かされたのか、私はそこがリアタイ当時から大きく気になっていました。


普通ならここで不二を本気にさせるのは手塚でもよかったはずなのですが、手塚は「不二!」としか言わずに本人の意思に任せています。
カウンターを全て破られ、それを封じての真っ向勝負でも白石が上、それにもかかわらず本気を出せばあっという間に追いついてしまうのです。
ここで問題にしたいのは「だったら最初から本気出せよ」ということではありません、不二が自分でも才能や実力を持て余して苦しんでいたのですから。
そうではなく本気になるきっかけがなぜ越前だったのかというと、これはおそらく越前が手塚とは違う形で手塚と同じ高みへ上り詰めていたからでしょう。

そもそも白石戦までの不二の試合を振り返ってみると、アニメオリジナルはいざ知らず許斐先生が描いた原作では不二はずっと格下としか戦っていません
シングルスだけを見てもルドルフの観月、氷帝のジロー、関東の赤也といずれもが不二の格下であり、不二が本気を出さなくても勝てる相手ばかりです。
氷帝戦のジローでは確かに「たまには本気で戦ってみな」と竜崎先生に言われて本気を出しましたが、あれはあくまで余裕でジローを圧倒したところにオマケして白鯨を出したけです。
決勝の赤也戦にしても本気を出さなくても勝てたところを敢えて盲目の状態に追い込むことで自分の潜在能力の一部を引き出して「勝ちへの執着」を垣間見たに過ぎません。

また、3試合のいずれもが不二と関わりの深い人間のために戦っていた節があり、観月戦とジロー戦は弟のため、そして赤也戦は越前のためと手塚のためでした。
確かに不二は副部長でも何でもなく手塚ありきで戦っていたので、そこを切り取れば利己的に戦っているようですが、試合に臨むモチベーションには利他的な動機が必要です。
これが大変に面倒くさいもので、最初のきっかけは利己的なものなのに、テニスで闘志を燃やすには何か外的要因が必要というのが不二のムラっ気があるところでした。
純粋にテニスが大好きな越前や手塚は不二のような理由を必要とせずとも自分でモチベーションを上げて相手と戦えるので、不二はこの2人に比べて「勝ちへの執着」が薄かったのです。

そして最大の違いは手塚と越前は自分と対等もしくは格上の相手に積極果敢に挑んでいるのですが、不二は基本的に自分に勝ち目がないと悟るとあっさり勝ちを譲ったことでした。
特にこれはダブルスで組んだ不動峰戦や山吹戦であり、この時不二はわざわざ自分たちが勝たなくても他のメンバーが勝てばチームは進むことができるからこそあっさり損切りしたのでしょう。
最初の越前との練習試合でも本気を出していたとはいえず手塚にそのことを指摘されていましたが、要するに不二は何かしらの因縁がない相手に対してはモチベーションを発揮しにくかったのです。
本当に大事な山場はほぼ全て越前か手塚が決めていて、その2人に譲っていたからこそ不二は安心して自分のテニスができていましたが、悪くいえばそれは「甘え」であり「逃げ」でもあります。

ましてや四天宝寺の白石は観月や赤也とは違って弟や青学の誰かとの因縁があったわけではなく、性格もプレイスタイルも真面目な秀才ですから不二にとって動機となるものがありません。
例えば手塚と跡部・真田や越前と遠山、乾と柳のように因縁の相手というわけではないし頂上決戦でもありませんし、不二が負けても残り3試合を全て青学が取れば勝てるのです。
だからこそ不二は最初にぼろ負けしても大して悔しいとはおもわずこのまま負けようとしたのかもしれませんが、だからこそ越前の言葉がきっかけとして必要だったんじゃないでしょうか。
手塚とは違うもう1人の青学の柱にして勝利への意思と爆発力をもたらす無限の可能性にしてテニスそのものの象徴である越前は不二にとって驚きと新鮮さをもたらす存在でしょう。

実際に越前はここに来るまでに手塚に敗北して勝ちへの執着を芽生えさせ、裕太との戦いで父親だけにこだわらずいろんなプレイヤーと戦いたいと志すようになりました。
そして氷帝の日吉戦で「青学の柱」としての自覚が芽生え、決勝の真田戦で手塚クラスの相手を下すという大金星を掴み、そして全国では遂に頂上決戦で跡部をも倒してしまうのです。
手塚から託された「青学の柱」を奪い取ってチームのために、そして何より自分のために本気で戦うという越前は実力はともかく経験値や魂のステージは既に不二の先を行っていました
そんな風にして手塚と同じ高みへいつの間にか登ったという実績がある越前の言葉だからこそ、負けて終わりにしようと思った不二の本気を引き出させることに成功したのでしょう。


ここで不二は初めて「このチームを全国優勝へ!それが僕の願い、だから絶対に負けられないんだ!」とらしくない言葉を口にしますが、不二もまたここで越前や手塚と同じくチームの為に本気で戦いました。
それまで「結果的に」他者のために戦うことはあってもスリルを重視していた不二が初めてそのスリルを捨て、天才としてのプライドもかなぐり捨てて本気で挑んだターニングポイントなのです。
そんな不二がそれだけ本気を出しても白石に負けて敗北の悔しさを知り、ここでやっと魂のステージとして不二は真の強者として更なる高みへ登る資格を手にしたのでしょう。
越前は手塚とは別の形で不二の闘争心に火をつけることができる唯一の存在ですが、それはここまでに越前が登ってきた魂のステージや実績が不二を上回っていたからだと思われます。


まあ越前は弟の裕太にも「そのツイストなんとかってやつ、あんまり使わない方がいいよ」「別にあんたの兄貴だけじゃないだろ強いのは」など、相手の本質を突く言葉をかけてましたからね。
だからこそ兄の周助に対しても同じように感じ取り自分や手塚と同じ高みに登って欲しいと思っていたのかもしれないし、不二もそんな越前の思いを承知していたのでしょう。
こればかりは手塚でも無理な話で、手塚はすでに関東大会初戦の跡部戦で本気を見せることによって不二の心を動かしましたが、手塚にできるのはそれだけです。
それ以上となると手塚以外に不二の闘志を焚き付ける天才が必要な訳で、だからこそ手塚からの自立を果たし本気の越前と戦う必要があったのだと考えます。

単なる先輩後輩という関係に収まらない越前と不二の付かず離れずの関係性は手塚と不二のNo.1とNo.2とはまた違った目線で見えてきて面白いですね。

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