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でも、本当にありがとう

風呂に入るのが面倒になって、食事すらも気が重くなった

腕に刻まれた傷痕の浅さと多さに絶望して


せっかく受験に受かったのに
親から不機嫌な顔をされても貫いた志望校
それが今親の「志望校はおまえのわがまま」という言葉と悪い機嫌によって揺らいでいる
自分が守り抜いたものを今度は自分が後悔しかけているなんて、悲しいね

そして僕はきっといつもよりも低空飛行


そんな中、公立の入試も終わった時期だったので区役所で勉強しよう、と蓬を誘った

区役所ではそこそこ真面目に勉強した
見た夢の話とか雑談もした

夕方になる頃、そろそろ終わろうという話になってそこを出た

この後どうする〜?と話しながら毎度の如く近くの小さい公園へと足を進める

まだ明るかったけれど月が出ていた
綺麗だった
自然と蓬と僕ふたりで空を見上げた

しばらく月を見たり、公園の大きなブランコを動かしたり、あの光っているのは星か飛行機か、なんて話をしたりしていた

ふと、蓬が「左腕見せて〜」と言ってきた
「やだ〜」って言った

僕はいつも、蓬が腕を見るのをいいと思ってもそれを言えない
だから、いつもは蓬が自分で腕を見ていた

いつものように蓬が僕の腕に触れる
前見られた時は傷は手首と腕の内側だけにあった、でも今は外側にもある
それを知られて嫌われることが、引かれることが、これ以上に負担をかけてしまうことが怖かった

いつもよりも抵抗した
怖い、嫌われたくない、怖い、せめて少しでも大丈夫だと思われていたい

気づいたら呼吸がおかしくなっていた
幸い蓬には気づかれていなかったみたいだった
(というのにも気づいたのは後だったのだけれど)

あれ、過呼吸だ、と思った
やばい蓬にはバレたくない、その一心で必死に呼吸を落ち着かせた

「過呼吸って繰り返すんやな〜」と何気なく言った、気づかれていたと思ったから誤魔化そうとした
「なったん?」と聞かれて、バレてなかったのか、と複雑な気持ち

「うん、たぶんなりかけた、?」とだけ返すと、「それはちょっとあかんなぁ」と蓬は呟いて、僕の腕を服の上から撫でた

それから彼が腕を見ようとすることはなかった

蓬のせいじゃないのに絶対に
でも蓬が自分のせいだと思っていそうで申し訳なかった

「ちょっと見えたんやけど、外側にも傷ない?
内側で切るとこなくなったんか、内側だけでは満足できんくなったんかのどっちかかなって思ってんけど」
言われて何も言えなかった

そのあと、いつものように髪の毛をくしゃくしゃしたりしていた
頭とか、髪の毛とかを撫でてくれた
その手がとても優しくて泣きそうになった
たくさん撫でてくれて甘えさせてくれた、恋人でもないのに

いっぱい迷惑かけてごめんなさい
ずっとそう思って俯いていた
涙が出てきそうだった
気づいたら、僕と蓬の影がハグしているみたいだった
実際ほぼそんな感じだった
項垂れて突っ立っている僕を優しく軽く、でも強く抱きしめてくれた気がした
蓬が暖かくて離れたくなかった

しばらくして、蓬が、「そろそろ帰ろう」と言った
帰りたくなかった
まだ俯いていると、「生きてる?」と僕の顔を覗き込んできた
「生きてる」と笑顔をつくると、「たまに心配なるんよな、」と言われた

「帰りたいか帰りたくないかでいうとどっち?」と聞かれて「帰りたくない」と答えた
「やっぱり、じゃあ、それはなんで?」とまた聞かれる
「…親がいるから」という避けようのない答えを投げると、「まぁそうやと思った」と蓬は笑った

そのまま公園の遊具にしがみついていたけれど、そんなの無駄で、結局公園を出た

蓬は自転車で僕は徒歩なので、少しして別れるところに着いた
「帰るよ?」と言われてまた何も言えなかった
迷惑いっぱいかけてしまった、こんな遅くまで、そんなのがずっと頭をぐるぐるしていた

何も言えなかったし一歩も動けなかった

「親だけでそんなに帰りたくないことあった?別の原因もあったりする?」と聞かれた
わからなかった
だから何も言えなくて、困ったふうに笑う僕を蓬は見つめてきた

そのあと結局帰れたけれど、また過呼吸のような感じになった
数分で収まったけれど


こんな自分を見られたくなかった
傷は何度も見られたし、あなたはたぶん周りの人でいちばん僕の腕を見ている

それでも、これまではまだ、少しだけでも明るくできていたはずだった

でも今日は笑えていたかわからない、まっすぐ歩けていたのかもわからない
全然笑えていなかったらどうしよう

しかも過呼吸にもなって、喋れなくて動けなくて、僕が蓬なら、なんだこいついつもと違う、みんなといる時とも違う、ってなって怖いよ、

同級生とは言っても(蓬曰く、3日だけだけれど)年下のひとに頼るだなんて情けないよね
しかもあなたは明日誕生日なのに、笑って今日別れたかったのに、出てきたのは情けないくらい細い声だった

酷いよって言いたい
こんな屑な僕のことを怒らなくて甘やかしてくれて、蓬を苦しめてるかもしれない
それなのに、なんでそんなに僕を受け入れてくれるんだ

ごめんね、
迷惑かけて、しかも過呼吸なっちゃって。
遅くまで僕が動かなかったから、帰るの遅くて親に怒られなかったかな、

ここに書いても蓬はきっとみないだろうから意味がないんだけど、それでも言わせてほしい
口で言えないから逃げさせてほしい

本当にこれまでたくさん迷惑かけてごめんなさい
でも、今まで見捨てないでいてくれてありがとう
これから蓬がしんどくなったらいつでも切り捨ててくれて大丈夫だから

本当に僕にとって大好きで大切な存在だよ、蓬は
依存していてごめん

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