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【詩】【小説】流れる、あるいは気化するなにか。

君はわざと目線をずらして、
僕の気を誘う。
時間は常に遅延している。
粘り気を帯びた空気が僕の汗ばんだ皮膚を緩慢に滑り、
思わず喉を鳴らした。
カーテンの隙間から零れる街灯の部分的な光が、
部屋の中に滑り込んでは拡散していく。
あらゆる存在が運動をし、
僕と君の時間だけは濃密な密度のもと停滞している。
僕は、それが再び動きだすことを期待してもいいのだろうか。
そして僕は憂鬱になる。
これも僕の思考のせいだ。いや、君のせいだったらいいのに。
視線を再び君に向けてみると、いつの間にかグラスが空いていた。
モスコミュールは柑橘系の香りを辺りに漂わし、
僕の鼻をついた。
部屋はすでに君の香りが消え、
湿気を帯びた倦怠が充満している。

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