あいのいと

I know it. novel / poem

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【短編小説】花やしきとレモンサワー

恋人のバスケ仲間、ゲンちゃんが高校の部活のコーチをやっていて、関東大会の予選があるっていうので、両国にある学校の体育館まで観戦しにおいでと言われた。 試合は10時半からだっていうから8時には起きなきゃいけない、日曜日の朝だっていうのに! 健全な高校生のバイオリズムに合わせるっていうのはとんでもないことだ。 恋人のもう一人のバスケ仲間である鈴木さんと、わたし、3人で両国駅で待ち合わせ、セブンイレブンでわたしはハイボールを、2人はアサヒの「糖質ゼロ」を入れてから試合に向かった

    • 【短編小説】北極星

      母から電話があったのは、パリから帰ってきた次の日のことだ。キャリーケースから中身を取り出して整理するのも面倒で、ベッドでごろごろしていた。 そんなに頻繁に連絡を取り合っているわけではないので、スマホのディスプレイに「母」と出た時点で、電話をかけてくるよほどの何かがあったのだと知れる。いやな予感しかしなかった。誰かが病気で倒れたか、死んだか。じっちゃが2年前に死んだばかりなので、可能性があるとしたら高血圧気味の父だろう──ということまでゼロコンマ数秒のうちに考える。 「ああ

      • 【短編小説】来世はメレンゲ

        「いつものガトーショコラ作ってあげたらいいじゃん」と、わたしは軽々しく言ってのけた。それを今になって後悔してる。でも、もう手遅れだ。 たきつけた手前、不安そうにしてた夏生をほったらかしにして男と遊んでていいわけもなく、わたしはケータイで時間を確認すると、起き上がって服を着始めた。もうすぐ、十五時に差し掛かろうとしている。 「もう行くの」 かすれた声が背中に投げかけられる。「うん」とも「ううん」とも聞こえるような、適当な返事をしてブラを着けた。シーツの上をゴソゴソ這い回る

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