組織変革が生じるとき

組織変革は組織論において重要なトピックである。

今回はゼミでGreve (1998) "Performance, Aspirations, and Risky Organizational Change" という論文を輪読したのでそれについて述べる。

組織はときに劇的に変わる必要が迫られる。それは環境の変化に適応するためだったり、広くは生き残りをかけて変革をする。もし変革が成し遂げられなければ、環境に淘汰されてしまうだろう。有名な事例としてはイーストマン・コダックがあげられる。

カラーフィルムを世界で初めて販売したこのメーカーは、フィルム市場の急激な縮小という環境の変化にうまく対応できず、2012年に倒産してしまった。まさに、Change or Die という事例である。

今回の論文はこうした組織変革が生じるかどうかは、組織の業績と業績に対する希求水準 (aspiration level) の関係によって大きくかわることを実証している。

希求水準とは、心理的にニュートラルな参照点であり (Kameda & Davis, 1990)、意思決定者によって満足だとみなされる最小限の結果 (Schneider, 1992) とされている。平たく言えば、「ここまでできればOK」というような水準のことである。

Greve は組織の業績と希求水準の差を求め、その値がプラスかマイナスかによって組織変革をするかどうかの関係性が変わることを実証している。組織の業績と希求水準の差がマイナス、ということは、「ここまでできればOK」という水準に組織の業績が達していないことを意味する。一方、組織の業績と希求水準の差がプラスということは、「ここまでできればOK」という水準よりも組織の業績が高いことを意味している。

一般的に考えて、「ここまでできればOK」という水準を満たせていなければ、まずいと思って組織を変えようとする動機が生まれるはずである。逆に、希求水準以上の業績を達成できているのであれば、わざわざ組織を変革する必要はなくなる。

なので、縦軸に組織変革の確率、横軸に組織の業績-希求水準という値をとれば、そのグラフは右下がりになるはずである。

Greve の論文の面白いところは、この直線が実際には「組織の業績ー希求水準=0」となるポイントで変化するところである。具体的には、組織の業績-希求水準の値がプラスになると、傾きが大きくなるのである。右下がりの直線の傾きが大きくなるとはつまり、組織は変革をしなくなることを意味している。

このことから、組織は少しでも現状に満足しているような状況では、組織変革することは非常に難しいということである。

組織内の多くの人が「まぁ、このままでいっか」と思っている場合、組織変革は極めて難しくなるだろう。


References

Greve, H. R. (1998). Performance, Aspirations, and Risky Organizational Change. Administrative Science Quarterly, 43, 58-86.

Kameda, T., & Davis, J. H. (1990). The Function of the Reference Point in Individual and Group Risk Decision Making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 46, 55-76.

Schneider, S. L. (1992). Framing and Conflict: Aspiration Level Contingency, the Status Quo, and Current Theories of Risky Choice. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 18, 1040-1057.

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