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世界一変わってるデート

彼から電話がかかってきたのは土曜の夜だった。

もしもし、明日のことなんだけどさ

基本的に、メッセージはしない彼、
私にとって彼からの電話は特別だった。
彼が話し始めると
無意識に私の口角が少し上がる。

明日のデート、
タンゴダンスをしに行こう。
レッスンを見つけたんだ。

アメリカ人の彼とはいえ
大学生でタンゴレッスンをしてる人なんて
私の周りにはいなかった。

また私たちが住む街は
とっても田舎で、
タンゴレッスンがあることすら知らなかった。

彼もまた初めてというので
ビギナークラスに申し込んでくれた。

なんとも面白いデートなんだと思い
もちろん私は乗り気だった。

彼との電話は5分ほどだったが
明日のデートが楽しみで
寝る前の布団がとても居心地よかった。

翌日、
朝目覚めて支度をすると、
彼が車で迎えにきてくれた。
窓から見える彼の姿
いつもと違うことにすぐ気がついた。
淡い水色のシャツに黒のパンツ。
タキシードまでとはいかないが、
そのくらいおしゃれだった。

今まではTシャツに楽なパンツ。
今にでもハイキングできそうな
格好だったから、彼のオシャレな姿に見惚れてしまった。

私もタンゴレッスンと知っていたので
ピンクのワンピースを着た。

私たちは常夏の島で、
まるでパリにいるような格好で街を歩いた。

クラスに入る
真っ赤な壁にシャンデリアがいくつも
小さな舞踏会のような
部屋が用意されていた。

先生はスペイン系の男の人で
姿勢がとてもよかったのを覚えている。

周りの人たちは、老人夫婦や
若いカップルの人たちもいた。
私たちはその人たちに混じって
レッスンを受けた。

初めは私も彼も恥ずかしくて、
お互い顔を見合わせて、
ずっと微笑んでた。

レッスンが進んでいくと同時に
私たちの恥ずかしい気持ちも
薄れていき、ダンスに集中した。

人生初めてのタンゴダンスは
幸せいっぱいの夢の中だった。

周りの人はハイヒールを履いていたが、
私は持ってきてなかったので、
貸してくれた、ココナッツの描かれた
靴下を履いて背伸びをして
背の高い彼のことを見つめながら
一生懸命に踊りの真似をした。

蛙化になることを心配していた私が
なんとも馬鹿だったなと少し笑えてくる。

レッスンが終わると、
彼と車に戻り、どこにいくか相談した。

私の行きたかったひまわり畑を提案すると
彼が行こうと言ってくれたので
ドライブすることになった。30分のドライブは
私たち二人の日常のシェア。
時が経つのがあっという間だった。

ひまわり畑に着くと、
彼がスマートに入場料を払ってくれ、
二人で中のファームに入った。

紅葉の風がとても居心地よくて、
見える景色が壮大だった。

中にいた動物たちに餌をあげる子供たちを
見ながら、彼は将来ファームを持ちたいと話してくれた。

おとぎばなしの中から出てきたような、
彼の話はとても魅力的だった。

ひまわり畑は
日差しが眩しくて、
ちょうど日の光が入り、
目の前いっぱいに広がる花が輝いて見えた。

彼のスーツ姿と
ひまわりの光で私の心は満たされた。

ひまわり畑を満喫すると、
彼の提案でお寺に行くことにした。

お寺の中は、
観光客で賑わっていた。
日本以外で日本のお寺を見るのは
初めて。
海外に住んでるけど
日本としか考えられないくらいだった。

彼が日本の文化に興味を持ってくれることが嬉しかった。
大学では陶芸をして茶道をして
日本の習字が家に飾ってあるくらいの日本好き。
彼は日本に来たことがないから
いつか一緒に帰りたいな。

そんなことを思っていたら、
私たちのお腹が鳴り始めたので
夜ご飯に行くことにした。

近くにあったタイレストランに二人で入った。
私たちが最初のお客さんで
陽気なおばさんが案内してくれた。

ライトがとても素敵で、
まるで私たちのために作られた。
プライベートな空間のようだった。

おばさんは1時間前にちょうどできた
フレッシュスイカジュースを進めてくれたので
二人でそれを頼んで乾杯した。

ローズマリーのシャーベットが
上に乗っていて、
ほんとにほんとに美味しかった。

二人で食事を頼んで
たわいもない会話をしながら
二人でお腹いっぱいになるまで食べた。

彼が支払いをしてくれたので、
車の中でお金を返そうとすると。
僕が君をディナーに連れていきたかったんだ。

私にとっての王子様の言葉が
心をときめかせた。

外に出るとちょうど夕方
日が沈むころだった。

私たちはバスタオルをスーパーで買い、
海に向かった。

30分ほどのドライブで
長く砂幅が広がる海についた。

周りを見渡すと人の姿は少なく、
暗くなるにつれて、彼と私二人だけの空間が広がった。

二人で日が沈んだ後の
色が薄暗く変わっていく空を見つめ、
彼の顔が私の近くにきた。
彼は私を優しく包み込んでくれて、
ぎゅっとハグをしてくれた。
そこからキスをして、
気づくと辺りは真っ暗になっていた。

彼が、私のことを抱っこするので、
彼にしがみつくと、
海の方に向かって歩き始めた。

そのまま、水の中に倒れ込んで、
私たちは服のまま、
真っ暗な海に飛び込んだ。

洋服も、髪も、全部びしょ濡れになって、
私たちは夜の海に二人
幸せな空間が流れていた。

秋頃の海は少し肌寒く、
もちろん泳ぐなんて寒すぎる。

でも彼との時間が楽しくて、
寒いということを忘れてしまうくらいだった。

彼と車に戻って、
暖房をつけて、車で駐車場から
出ようとする時。
私たちの会話は死ぬまでにやってみたいことリストの話になった。
私のリストの中に、
裸で海に泳ぎにいくという
なんとも馬鹿げたことがしたいと思っている。

彼に伝えると、じゃあ今日しよう。
そんなまた思わぬ返事が返ってきた。

一度車に乗ったのにも関わらず、
彼と海に走りに行った。
私たちの服は既にびしょびしょで、
そんな濡れた服を脱ぎ捨て、
海に飛び込んだ。

裸ではいる海外の海。
なんて最高なんだと
心から思った。

また、彼の裸を見るのは初めてで、
恥ずかしい気持ちが少し、
それよりもワクワクと興奮だった。

私たちは海の中で、踊るようにはしゃいで、
彼が震えるまで、海の中にいた。

なぜだか私は全然寒さを感じなかった。

自分の死ぬまでにやりたいことリストに
チェックできることがうれしく、
彼との思い出が増えた。

私たちのデートは
絶対的に普通じゃないと思う。

彼の見せてくれる世界は
今までに生きていた世界とはまるで違って、
ワクワクドキドキ
好奇心が心から湧いてくる。

これからも
どんな世界を見せてくれるんだろう。
楽しみだ。




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