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5分で読める短編小説

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5分あれば読み切れる短編小説です。電車や人との待ち時間にどうぞ。
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【小説】働き者のじいさん、あの世で捕まった。

【小説】働き者のじいさん、あの世で捕まった。

「お盆に死者が帰ってくるというのは、本当なのかな……」
お盆休みを使って実家に帰ることになった葉月は、大阪から東京へ向かう新幹線の中、移り変わる景色を眺めながらつぶやいた。

身体がずっしりと重い。就職してから毎日働き詰めで、長期の休みは今回が初めてだ。

「おじいちゃんも、いつもこれだけ疲れていたのかな」

新年早々、葉月の祖父が亡くなった。
なかなか就職先が決まらない葉月のことを思い、祖父は就

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【小説】私を裸で泳がせて

【小説】私を裸で泳がせて

泳ぐときは裸がいい。
水着は薄っぺらいけれど、あのたった一枚の布がプールでの開放感を台無しにしてしまう。

私は以前、裸で泳いでいた。
素肌で感じる水の冷たさと太陽のジリジリとした日差しを全身に浴びる。そして大声をあげながらプールではしゃぐ。それが私の夏の過ごし方。
なのにいつの間にか、むりやり水着を着させられ、身体が締め付けられる思いをしながら泳がなければならなくなった。

どうして、裸で泳いで

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【小説】ある梅雨の日の死臭

【小説】ある梅雨の日の死臭

バシャバシャと水の跳ねる音が聞こえる。

梅雨前線がどうのこうのと解説するテレビを消し、沙織は出勤準備を整え玄関に手をかけた。ドアを開ければ湿気を吸い込んだ重苦しい空気と雨粒が沙織を迎えるに違いない。
「……あれ、よかった……晴れてるわ……」
沙織は開きかけた傘を閉じ、歩道にいくつも溜まった水たまりを避けながら、駅へと向かって歩いた。沙織の横を勢い良く追い越していく小学生たちは、水たまりを遠慮なく

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