治験を焦ると人が死ぬって話

こんばんは。

旅行に次ぐ出張からの土日出勤、果ては引越しでくたびれ果てている内に、全く音沙汰がなくなってしまいました(他人事)。
そんな中でもSNSは覗いてしまう…依存症かな?
なんて思っていた矢先、気になる呟きが目に入った。
それが、これ。

…初めてやってみたけど、上手く埋め込めたかな?
まぁいいや。閑話休題。

ドラべ症候群。ってなんだろう。

調べてみたら、難病センターのサイトにこんな事が書いてあった。

それまで健康であった赤ちゃんが、多くの場合は1歳までに全身あるいは半身のけいれんで発症し、その後もけいれんを何度も繰り返す病気です。けいれんは発熱や入浴で誘発されやすく、けいれんを止めるために病院で注射が必要になることも少なくありません。
1歳を過ぎるとその他のてんかん発作を合併することもあり、多くの場合てんかん治療薬の効果は十分ではなく、次第に発達の伸びが鈍ってきます。

日本では「指定難病」に指定されていて、3000人ほどの患者さんがいると見積もられているが、潜在的にはもっといると考えられているらしい。
ちなみに、日本の人口は、2017年の内閣府の統計で約1億2671万人となっているので、大雑把に計算しても0.002%だ。
500人に1人、この数字を多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだろう。
だが、これは「希少疾病」にあたる。患者が少ない病気、という意味だ。
日本にいる患者さんの数が5万人未満の場合、希少疾病と呼ばれるようなので、ドラべ症候群は余裕綽々の態で希少疾病と名乗れる。
希少疾病の何が良いのか?
ということなのだが、デメリットは「患者数が少なくて治験が進まない」ということ、そしてメリットは「他の医薬品より優先して厚生労働省が審査をしてくれること」である。

待望の新薬「Buccolam」

今日本で使われている治療薬では不十分ということで、国内での承認が待ち望まれている薬だ。
海外では既に承認されてるんだから、日本でも早く!
ということだ。

うん、めっちゃ気持ちわかる。

だけど、なかなか承認されない。
何故か?
承認を取得するためには治験でデータを集める必要があり、その治験の条件が厳しいからだ。
0歳児と10歳児のデータが集まらないなんて、当然だ。0歳児なんて、ドラべ症候群の診断が付いていないケースの方が多い。
こんな条件で、治験が進むわけがない。
それに海外で承認されてるんだし、海外のデータで良くない?
治験の条件を変更するか、もしくは海外のデータで承認してよ!
と、いうことである。

え? なにその理屈?
申し訳ないが、この論理、飛躍しすぎである。
治験の条件、つまり治験の実施計画書に記載されている「選択基準」と「除外基準」はそう簡単に緩めて良いものではないのだ。

簡単に治験の基準を変えられない理由

大まかに3つの理由がある。
まず、1つ目。

1.病気には人種差や性差がある

かつて一世を風靡し、今なお時折ニュースに出てくる抗癌剤「イレッサ」をご存知だろうか。
「イレッサ」は申請当時、メディアで「夢の新薬」ともてはやされた。
だって、飲み薬の抗癌剤なんて、当時はとても画期的だったのだ。
だが、不幸なことに、手当たり次第に使われすぎて、副作用の間質性肺炎で亡くなる人がたくさん出た。
そのため訴訟が提起されたのだが、話が逸れるので置いておく。
あまり良いイメージを持たれないことも多いこの薬、実は「タバコを吸わない日本人女性」の肺癌に効く確率が高いことが後々分かった。
理由は分からないが、イレッサがターゲットにしている遺伝子の異常が、不思議と「日本人女性」に多く見られるからだ。
これは「病気の人種差」(欧米人より日本人に多い)であり、「病気の性差」(男性より女性に多い)である。
このように、欧米人よりも日本人の方がなりやすい病気、効果のある(もしくは効果のない)薬があれば、逆に、日本人よりも欧米人の方がなりやすい病気や、効果のある(もしくは効果のない)薬もある。
つまり、海外でデータがあって承認されているからといって、日本人でもちゃんと効果があり、副作用も許容範囲である、とは限らないのだ。
もし、日本人にも効果がある、としよう。
だが、海外の人たちが飲んでいる用量が、果たして日本人にも合っているのかは分からない。
同じ量で足りるかもしれないし、多くないと効かないかもしれないし、もしかしたら量を減らさないと副作用が強く出るかもしれない。
そして、そもそも、飲んでみたもののほとんどの人が効果もなく、副作用に苦しんだり死んでしまう薬は、必要ない。

2.特に乳幼児は薬の影響が計り知れない

乳幼児、高齢者、妊婦。
医療関係者や医薬品関係者にとっては敏感にならざるを得ない単語だ。
なんでかって?
薬がどんな影響を与えるか、全く分からんからだ!
ここでは乳幼児に着目するが、乳幼児はまだ体が出来上がっていない。
骨や筋肉はもちろん、脳、臓器、神経、あらゆるものが未発達だ。
体も小さく、その分わずかな薬で大きな影響が出てしまう。
たとえばBuccolamは、副作用に「嘔吐」や「意識低下」、「呼吸困難」がある。つまり、中枢神経系の副作用だ。
赤ちゃんにこれらの副作用が強く出てしまったら、赤ちゃんは簡単に死んでしまう。
ドラべ症候群による痙攣には対処できたが、死んでしまう子が頻発したら、それは全く意味がない。
ちゃんと薬の効果があって、かつ副作用が許容範囲に収まる薬の量を、きちんと把握しなければならない。

以上2つの理由により、海外データだけを持ち出して「承認します!」と言えないことは分かっていただけただろうか。

分からなくても続けますね(続けるんかい)。

それでは、最後のポイント。

3.ちゃんとした結果が出ない

治験の実施計画書を見ていないから憶測でしかないが、最近の業界の流れから言っても、ほぼ確実にこの治験は海外のデータをブリッジングしているはずだ。
平たく言えば、「日本人のデータと外国人のデータを比べた結果、この病気に人種差はないと考えられる」ため、「海外で行った試験の結果を基に承認を取得する」というプロセスを踏むのではないかと思う。
このメリットは、1から日本人データを集めて病気に対する薬の有効性と安全性を評価するよりも、試験期間が短くなることだ。

「海外のデータで承認してよ」と言う言説を見かけたが、多分、それしてる筈やで。
ていうか、それをするための治験をやってんだと思うよ。

そして、だからこそ、治験の基準を緩められないのだ。
海外のデータと日本人のデータを比較するためには、極力全ての条件を揃え、「人種だけが違う」という状況にするのが理想だ。
だが、現実的には無理なので(1人のアングロサクソンをモンゴロイドに変えることは不可能だ)、極力条件を揃えつつ、人数を増やすしかない。
(ここら辺の詳しい理由は統計学になるので割愛する)
基準を緩めたら、そもそも海外のデータを日本人にも適用できると証明できなくなり、Buccolamの承認は下りなくなってしまう。

それに、赤ちゃんを抱えた親は誰だって、子供を死なせたいとは思わないだろう。
治験に参加することで、もしかしたら副作用が出るかもしれないと言われた時に、自分の大切な子供を治験に参加させることができるか?
かなり難しい問題だ。治験に参加する人数が集まらないのも道理だろう。

そして、施設数が少ないということだが、それも当然だ。
ドラべ症候群は遺伝子疾患であり、確定診断には遺伝子検査が必要だ。
遺伝子検査ができる病院は限られている。
町中にあるクリニックでは、そもそも診断できない。

今できること

治験を早めて、などと製薬企業や医療機関に言ったところでどうにもならない。
結局審査をするのは厚生労働省(PMDA)だし、PMDAも希少疾病の治療薬は優先して審査をするよう仕組みを整えている。
私たちが出来ることといえば、厚生労働省に対して「ドラべ症候群の治療薬を求めている」という署名を出して必要性を訴え続けること、そして、患者家族のために募金や基金を集めることなのだ。

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