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唐突にはじまって終わる書き出しクイズ


 もうずいぶんと長いことエッセイなんて書いてないもんで、こんなときになんと前置きをしてはじめたらいいのかすっかり忘れてしまった。

 先日知人からもらったタオルが今治のいいやつでふっかふかだったとか、最近住んでいる地域でようやくはじまったウーバーイーツで頼んだフレンチトーストがそれはもう美味しかったとか、そういうくだらない話を書いては消してを繰り返している。

 あーでもないこーでもないとやっているうちは大抵辞めておいた方が良いことのほうが多いのだけど、そんなことを言っていたら一年なんてあっという間に過ぎていってしまうことを実感しつつある27歳ですので、思いつく通りにやってしまおうと決めた。


~唐突にはじまって終わる書き出しクイズ~


 きっかけは野やぎさんの#冒頭3行選手権 。

 これ、楽しかったな。冒頭3行の夢と熱量が詰まってる感ってすごいなと思った。

 そして「自分って普段どんなふうに書き出してるだろう」って振り返った。振り返るついでにまとめてみようと思って、じゃあついでにクイズにしてみようと思った(飛躍)。

 ということで今までnoteで公開した七屋糸の小説作品の中から10個ピックアップしてみました。①~⑩のうち半分でもわかったらあなたは相当な七屋ファンです(涙出そう)。

 それでははじまり、はじまり~


①駅のホームのへりに立ち、遠ざかっていく電車の後ろ姿に手袋をした親指をあてる。

(続き) 羽虫でも押し潰すみたいに鉄の塊が見えなくなって、やがて雪景色の中へ溶けていく。絵画のように動かなくなった景色を眺めて、やっぱり乗ればよかったと今更に思う。

(解説)
 好きなんですよねぇ、こういう暗めの書き出し。


②二度目の「もう浮気はしません」の言葉を、わたしは1ミクロンも信じていなかった。

(続き) だってそうだろう、バンドマンとして夢を追いかける彼のためにぼろ雑巾のように働いて帰ってきた夜、同棲している部屋のベッドで見知らぬ女が裸にシーツで色っぽくしなを作っていたら誰だって「愛は死んだ」とシャウトしたくもなる。

(解説)
こういうのね、定期的に書いちゃうよね。


③まさか押し倒す側になるとは思わなかったが、見下ろした佐竹の白いおでこが意外にも優越感を刺激して。

(続き)「ちょっと、可愛く嫌がってみて」
「突然の無理難題だね。そんな高等テク持ってないよ」

(解説)
 ~て。で終わる冒頭ってあんまりなくない?って思ってたときのやつ。

④透明な包み紙が幾重にも重なり、やがてわたしになってゆく。

(続き) この皮膚の下を流れるのは甘ったるいチョコレート菓子だろうか、それとも誰かの祈りだろうか。

(解説)
 このときリンドールのチョコレートにめちゃめちゃハマってたことだけは覚えてる。


⑤それなりに格好の付きそうな言い訳を並べたところで、反則的に漏れた本心を上回りはしない。

(続き) 瞬間的に弾き出された答えがすべてであり、あとに何を塗り重ねても必要以上に湿り気を帯びるばかりで、根腐れさえ起こしそうな気配に思わず溜息を吐いていた。

(解説)
 これは結構わたしの書きたいことの本質だったと思う。


⑥とうとう既読すら付かなくなったLINEの画面に、雪が降っていました。

(続き) 上から下へとスクロールするような新雪は降れども降れども積もることはなく、小さな板の中を流れてゆきます。

(解説)
 クリスマスですから、えぇ。


⑦パンダとしての人生を全うすべく、わたしは日夜研究に励んでいる。

(続き) 自分がパンダだと気がつくまでに、随分と時間がかかってしまった。わたしは人間の手によって取り上げられ、人間に囲まれて育ったせいで長いこと自分を人間だと信じ込んでいた。

(解説)
 なにせうちの子が世界一可愛いもんで。


⑧二年付き合った彼女に別れを切り出したら「三日だけ待って」と言われた。

(続き) 大事な話があるとメッセージを送って、その日の夜には俺の部屋のローテーブルを差し挟んで向かい合っていた。彼女が着ている赤いTシャツを見たら楽しかった思い出が蘇ってきて感慨深くもなったが、それ以上に解放されたいという思いが募っていたので構わずに切り出した。

(解説)
 わたしはこういう女の子が好きです。


⑨その寿司屋の制服はうさぎの目のような色をしていた。

(続き) 女の子の胸元には「研修中」の札があり、眉の薄い顔立ちからまだ高校生くらいだろうか。アルバイト、というよりは職場体験に近い。
 うさぎの色が一層濃くなる。
 レジ前で新米店員とその男を見つけたとき、俺の口からは反射的に「あ」と漏れた。それは「あ、やっちまった」の「あ」であって、「あ、大丈夫かな」の「あ」ではなかった。

(解説)
 なんてったってSFですよ。すこしふしーぎ。


⑩小さな窓の中で笑っているきみが、一番かっこいいと思う。

(続き) 程よく重みのある卒業アルバムを膝に乗せ、角に指をかけると自然と三年二組のページで止まった。一面に並んだ小窓にはかつてのクラスメイトの顔と、わたしの顔も写っていたけど、それらを感慨深く眺めることはなかった。荒井由実が歌うみたいにその中のたったひとつ、きみだけが、わたしにとって卒業アルバムを開く意味だった。

(解説)
 こんな青春。あんな青春。


終わりに


 こんなお遊びに最後まで付き合ってくださり、ありがとうございました。

 お楽しみいただけたかわかりませんが、わたしはとっても楽しかったです。たまにはこういうのも良いものですね。

 また、もしも「○番のやつ知らねーけど、ちょっと気になる」みたいなやつがあったらコメント欄でお答えしますのでお気軽にお問い合わせください。

 それでは、またいずれ。



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