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筍と団欒の音

夕方、玄関を開けると大小6つの筍が置いてあった。きっと、ご近所のおばあちゃんだろう。いつも畑で育てた野菜をおすそ分けしてくださる。昨日は大きな原木椎茸がゴロンと置いてあった。

ちょっと疲れていたのだけど、筍は鮮度が命。大きな鍋を戸棚から引きずり下ろし、大量のお湯を沸かす。その間に玄関先で筍の皮を剥く。

この家へ越してきてちょうど1ヶ月が経った。たまたま旅先で出会った一軒家に一目惚れし、持ち主を探してもらって住めることに。敷地が広く、とても一人では草刈りできないと心配していたところ、ご近所のおじいちゃんが手伝ってくださることになった。野菜をくださるのは、そのおじいちゃんの奥さん。

ここ数日、気候が一気に暖かくなったところ、庭の草が猛烈な勢いで成長し始めた。そのスピードに正直おののき、これくらいしぶとく生きるのはさぞ気持ちがいいだろうと、ちょっと羨ましくもなる。

米ぬかがないので、一掴みの生の米粒を鍋に放り込み、筍を茹でる。掘り立てだからか筍はとてもやわらかく、串がスッと通るまでにそれほど時間がかからなかった。一晩そのまま放置し、明日の朝冷蔵庫に入れることにする。

最近、友人から教えてもらったこと。茹でた筍に砂糖をまぶして冷凍すると、食感が変わらず保存できるらしい。筍はじゃがいものように、冷凍するとゴムが伸び切ったようななんともいえない食感になるのが苦手だった。友人曰く、「どんな料理を作るかをあらかじめて決めておいて、そのまま使えるようにカットしておくと後が楽だよ」とも。

煮物用と筍ごはん用、きんぴら用に切り分け、前の2つは教えてもらった通りに冷凍する。今夜はきんぴら。薄口醤油とみりんでさっと炒め、白ゴマをふりいれる。シャキシャキとした歯応え。残った分は明日春巻きの具にしよう。

夕食後、玄関を開けると昼間とはうってかわって涼しい風が吹いていた。暮れていく山を眺めながら隣家に目をやると、赤々と明かりが灯っている。一人暮らしの私と大家族のお隣。普段、全然さみしさは感じないけれど、夕暮れの家族団欒の音は心に沁みるものがある。