大塚已愛

小説家。 日本ファンタジーノベル大賞2018と第4回角川文庫キャラクター小説大賞をw受…

大塚已愛

小説家。 日本ファンタジーノベル大賞2018と第4回角川文庫キャラクター小説大賞をw受賞してデビュー。 新潮社より『鬼憑き十兵衛』 KADOKAWAより『ネガレアリテの悪魔』シリーズを刊行

記事一覧

(いまごろですが)通販開始しました

以前よりnote上でサンプル公開しておりました「Nostalgia」ですが、BOOTHにて通販を行っております。 Twitterなどでは宣伝していたのですが、noteでは失念しておりました、…

大塚已愛
4年前
5

11/24の東京文学フリマに参加します。

というわけで、11/24の文フリのサークルスペースが出ましたのでご報告です。 サークル名:みなそこ スペースナンバー:ケ-52 新刊1種、商業2冊を持って行きますので、お…

大塚已愛
4年前
5

Nostalgia 第二章 2&3

二  六時の鐘が鳴った辺りか。  ミューディーズ本店の前は、野次馬でごった返していた。店の中に突っ込んだ乗合馬車は既に除けられ、大きく空いた玄関からは、内部の惨…

大塚已愛
4年前
9

Nostalgia 第二章・1.5

 メアリは結局、あの老人に譲られた本の他には、イザベラ・バード女史の記した日本旅行記と、ルイ・ジャコリオが記した『印度(インド)騎行』の二冊を借りることにした。…

大塚已愛
4年前
9

Nostalgia 第二章・1

第二章 一  新しい服と靴が出来上がったのは、採寸から丁度一週間後のことだった。靴を待つ間、メアリは家から一歩も出ないままに十二月を迎える。  一週間家に籠も…

大塚已愛
4年前
9

Nostalgia 第一章・3+4

三  ヴィクトリア駅の通りの前で馬車を降りると、教授は馭者に、三時間後に迎えに来るように命じた。馭者が馬に鞭をくれ、去って行くのを眺めてから、教授はW・H・スミ…

大塚已愛
4年前
13

Nostalgia 第一章・2

二  空は何処までも青かった。あとすこし、ダラムという駅で降りると、父親は言う。そこには、『おじいさま』が住んでいるらしい。はじめて『おじいさま』に会いに行くメ…

大塚已愛
4年前
11

Nostalgia 第一章・1.5

 大英帝国、リヴァプール。――始まりは、あるいはこの場所だったのかも知れない。  イーストエンドの騒動と同時刻。倫敦から南へおよそ八十哩(マイル)の港町でも事件…

大塚已愛
4年前
13

Nostalgia 第一章・1

第一章 一  一八九四年十一月某日、大英帝国・倫敦。  そもそもの始まりが何時だったかはわからない。しかし、終わりの始まりは確かにこの日、この時、この場所だ。 …

大塚已愛
4年前
24
(いまごろですが)通販開始しました

(いまごろですが)通販開始しました

以前よりnote上でサンプル公開しておりました「Nostalgia」ですが、BOOTHにて通販を行っております。
Twitterなどでは宣伝していたのですが、noteでは失念しておりました、申し訳ありません💦
おかげさまで残り20冊くらいなので、通販ご検討されている方はお早めにです。

Nostalgia 1 | みなそこ https://minasoko-tuka.booth.pm/item

もっとみる
11/24の東京文学フリマに参加します。

11/24の東京文学フリマに参加します。

というわけで、11/24の文フリのサークルスペースが出ましたのでご報告です。

サークル名:みなそこ
スペースナンバー:ケ-52

新刊1種、商業2冊を持って行きますので、お気軽に遊びに来てくださいませ~
 と、いうわけでいままで何の文言もつけずにUPしてきた「Nostalgia」ですが、これが新刊になる予定です。
 ページ数などはまだ未定なのですが、表紙が届きましたのでお裾分けなど。

 イラス

もっとみる
Nostalgia 第二章 2&3

Nostalgia 第二章 2&3



 六時の鐘が鳴った辺りか。
 ミューディーズ本店の前は、野次馬でごった返していた。店の中に突っ込んだ乗合馬車は既に除けられ、大きく空いた玄関からは、内部の惨状がはっきり見えた。
 血に塗れた玄関からは、幾つもの担架に乗せられた『人間の残骸』が運び出されている。運良く生きのこった者達も、医者や看護婦の手によって治療を施されて居る間中、ずっと苦痛の叫びを上げていた。
 それらの苦痛の声に呼ばれる

もっとみる
Nostalgia 第二章・1.5

Nostalgia 第二章・1.5

 メアリは結局、あの老人に譲られた本の他には、イザベラ・バード女史の記した日本旅行記と、ルイ・ジャコリオが記した『印度(インド)騎行』の二冊を借りることにした。
 なんとなく、先ほどの紳士の言葉が引っかかっていたからである。文化の死とは、一体どういうことなのだろう。
 貸し出しカウンターは混んでいた。順番を待つ間、メアリは先ほどの紳士の話をウィリアムに訊いてみる。
 果たしてウィリアムは、茫とした

もっとみる
Nostalgia 第二章・1

Nostalgia 第二章・1

第二章



 新しい服と靴が出来上がったのは、採寸から丁度一週間後のことだった。靴を待つ間、メアリは家から一歩も出ないままに十二月を迎える。
 一週間家に籠もりきりだった割に、退屈は一切なかった。教授の家にはひっきりなしに来客があったからだ。
 教授を尋ねてくる人間は学者仲間かと思いきや、実際は軍人や警官が殆どだった。教授は軍は勿論、警察にも協力しているのだそうだ。彼等は難しい暗号の解読

もっとみる
Nostalgia 第一章・3+4

Nostalgia 第一章・3+4



 ヴィクトリア駅の通りの前で馬車を降りると、教授は馭者に、三時間後に迎えに来るように命じた。馭者が馬に鞭をくれ、去って行くのを眺めてから、教授はW・H・スミスの売店を通り過ぎ、その前にある、一際大きな建物を目指す。倫敦でも珍しい、五階建ての大きなビルだ。
 窓硝子に金文字で『Travel Agency』と書かれたその建物は、フォッグ社本店――八十日間で世界一周を果たした『誠実なる紳士』、フィ

もっとみる
Nostalgia 第一章・2

Nostalgia 第一章・2



 空は何処までも青かった。あとすこし、ダラムという駅で降りると、父親は言う。そこには、『おじいさま』が住んでいるらしい。はじめて『おじいさま』に会いに行くメアリは、お気に入りの白いドレスを着て、列車の窓から流れる景色をはしゃいで見ていた。
 コンパートメントの中には、父親とメアリの二人しか居なかった。随分と立派な客車で、座席もどこかふわふわだ。
 父親は、とても優しい目でメアリを見ていた。い

もっとみる
Nostalgia 第一章・1.5

Nostalgia 第一章・1.5

 大英帝国、リヴァプール。――始まりは、あるいはこの場所だったのかも知れない。
 イーストエンドの騒動と同時刻。倫敦から南へおよそ八十哩(マイル)の港町でも事件は起こった。
 深夜であるにもかかわらず、港に停泊した汽船からは、一斉に乗客達が降りていく。極東――日本からの船である。乗客の数は意外と多く、タラップの辺りでは少しばかり渋滞が起きているようだ。見れば、本国では流行遅れのバッスルを付けた婦人

もっとみる
Nostalgia 第一章・1

Nostalgia 第一章・1

第一章



 一八九四年十一月某日、大英帝国・倫敦。
 そもそもの始まりが何時だったかはわからない。しかし、終わりの始まりは確かにこの日、この時、この場所だ。
 少女は、濃い霧の中をひたすらに駆けている。クレープの喪服が風に舞う。
 ブルネットの長い髪が美しい、大きな翠の目をした少女だった。小柄で痩せぎすの体を見るに、年の頃は十四、五才か。幼さの残る、けれど聡明そうな顔立ちだ。
 時刻は深夜

もっとみる