太宰治『葉桜と魔笛』
「桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します」
主人公の老婦人はそう語る。
三十五年前、二十歳の主人公は、病弱な十八歳の妹と、厳格な父の三人で暮らしていた。妹は腎臓結核を患っていて、医者からも「百日以内」と言われていた。
ある日、主人公が妹の箪笥を整理していると、
M.Tという男からの30通ほどの手紙を見つけた。差出人には色々な女性の、それも妹の友人の名前が書かれていたため、妹が男と文通していたことに、主人公も父親も気づかなかったのだ。
最初は楽しい気