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やわらかな澤田流 治ろうとする力を伸ばすお灸(4)

第4回:太極療法は、本当にシンプル

木村辰典(きむら・たつのり)
木村鍼灸院院長、大阪行岡医療専門学校非常勤講師

 「太極療法」という言葉を、聞いたことがない人もいるかもしれません。澤田流の代名詞といえるもので、澤田流の治療法そのものを指します。

 『鍼灸真髄』のなかでは、こう書かれています。

 「五臓六腑の中枢を調えることにより末梢の病気をなほすもので、対局所的の治療ではなく、根本治療である。……」(p.19)

 「澤田流の治療の眼目は丹田の力を満たしめることにおかれていた。太極治療をやると自然に丹田に力が満ちてくる」(p.24)

 ちなみに「太極」とは、陰陽がいまだ分かれる前という意味ですので、身体を気血などの概念で分ける前、全身の内も外も丸ごと、生命力そのもの、ということになります。

 まとめますと、病名や症状にとらわれず、身体をしっかりと診て五臓の不調和を調えると、丹田(下腹部)が充実してきて、自然と病気は治ってしまう、というところでしょうか。

 身体の治ろうとする力があるからこそ、病気は治るわけで、お灸が症状や病気を治していると勘違いしてはいけないのだと思います。

 治ろうとする力を伸ばす、そんなお灸を目指したいものです。

 では、五臓の不調和をどのように見つけ、調和を取るのか?
 丹田が充実したかどうかをどのように診るのか?
 など、素朴な疑問が湧くところです。

 それを知るためには、澤田先生が鍼灸で活躍する前にまで遡らないといけません。澤田先生小伝を参考にタイムスリップしますので、少しお付き合いください。

 若き日の澤田先生が、朝鮮半島にて、足を傷めた患者の治療をしている最中に、腰のあたりのコリが出ているのに気づき、それをほぐすことで足の痛みや腹の症状までが取れた有名な話があります(ちなみに、このときは、柔道整復術が専門で鍼灸については全くの素人でした)。

 そこから経穴に興味を持ち、古書屋で初めて手にした本、それが『十四経発揮』です。
 この本は中国の経絡・経穴の専門書で、澤田先生はその後20年かけて、温めた石を生きた人の経穴に当てて、ひびき方を研究したそうです。

 そこで初めて、自身が指先で感じていた反応が、経穴に一致することを知るわけです。

 普通は、テキストで経穴を学び、その後に経穴の反応を探りますが、澤田先生は先に経穴反応に気づいてしまったのです。

 お弟子さんたちに、「書物は死物、生きた身体によって読みなさい」と繰り返しいわれた、この学び方こそが、澤田流の原点になったのだと思います。

 ここが分かると、あとはシンプルです。

 その後、身体中を巡っている経絡は五臓による支配を受けていることを知ります。そして、その大切な五臓を治する経穴として、背部の肺兪・心兪・肝兪・脾兪・腎兪の五臓兪に目を付けたのです。

 澤田先生もはじめは、ここを中心に身体(五臓)の不調和をうかがい、そこだけを治療穴として使っていた。

 これら5つをすべて据えるのではなく、生きた身体の反応をみながら必要なところだけを据え
ていきました。

 そして、これをベースとしながら、五臓兪の近く(縦・横)のつながり、または表裏としての腹の経穴など、治療の幅を広げていかれたのでしょう。

(つづく)

※本記事は、月刊『医道の日本』2020年6月号に掲載されたものです。


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鍼灸の名人といわれた澤田健に師事した代田文誌がその日常治療の間に見聞したものを筆録。この書に記されている説は大方、鍼灸古典の説に基づくものであるが、同時に著者の独創的見解も多い。その思考や表現はきわめて素朴で簡単で、治療の実際に役立つ、臨床的真理の宝庫。


著者プロフィール:木村辰典(きむら・たつのり)

1976年生まれ。曾祖母が産婆と灸治療、母親と姉が鍼灸治療をしていた影響で鍼灸の世界に入る。2002年に大阪行岡医療専門学校鍼灸科に入学。2002年より母親の同級生である上田静生先生に師事。初対面のときに「鍼灸真髄を暗記するまで読みなさい」と言われ澤田流と出会う。2005年、大阪行岡医療専門学校鍼灸科卒業。あん摩マッサージ指圧師免許取得。その後、澤田流の基礎古典である『十四経発揮』の教えを受けつつ臨床にあたる。2010年より一元流鍼灸術ゼミにて伴尚志先生に師事。2012年より澤田流や灸術を学ぶための「お灸塾」を開講。
2007年4月より大阪行岡医療専門学校に勤務。現在は非常勤講師。2011年10月より同校の「お灸同好会」で指導。2009年より大阪ハイテクノロジー専門学校非常勤講師。2005年より母親が営む木村鍼灸院に勤務。2016年、自身の木村鍼灸院を開業。


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