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武士と月

 古来からもののふの信仰対称として選ばれたものに「太陽」と「月」がある。日月への信仰はその「不変」と「普遍」にある。両者とも移動はするが、常に天空にあって消滅しない。

日月図螺鈿軍陣鞍(鎌倉時代)——井伊達夫収集写真資料


伊達政宗所用 総覆輪六十二間筋兜附仙台胴具足より

 今日(こんにち)ありても明日(みょうにち)の「確実」を信じられない運命をもって生きたサムライにとって、いかなるときもゆるがぬ存在としてありつづけたのが太陽と月であった。

左:伊達政宗具足(同上)右:井伊直政所用・五本菖蒲前立朱佛二枚胴具足 (取材風景)

 あえていえば月は欠ける。しかし欠けても軈ては必ず満ちる。その姿に明日を、いわば棄てて生きてきたもののふ達は憧れ、一種の信仰をもった。

NHKHP「美の壷 輝きに心映す 月」より

 月を信仰した侍は一人山中鹿之介だけではなかった。いわば活きるためのよすがであった月は、時に兎が出て餅をついてくれる。武門にとって「跳躍」を事とする兎は、戦時の理想だ。それが餅を搗く。

お伽噺にしても、侍にとって月の存在は、多くの意味で生活の拠り代とも受け取れた希望の星であったのだ。

放送:二月十日一九時半 NHKBS

表紙刀:刀 無銘平造 指月老翁彫図より

禅公案から着想を得たと思われる。老人は指を天に向け、月を指している。その月は無論彫られてはいない。


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