メリバの醜い人魚姫Ⅰ

悪夢の始まりは、突然やってきた――

中学に上がっても相変わらず私の隣にはカナコがいた

入学式を終え同じクラスになり、私達は両手を繋ぎ上下に何度も揺らして喜んだ

カナコがいる

これからの学校生活を思い浮かべ、満面の笑みで片手を大きく上げ二人で寄り添って写真を撮った

中学校は隣の地区の小学校と合同となり、転校前に仲良かったクラスメイトとも同じクラスになった。

前の小学校では分け隔てなく仲良くしていたので
私を見つけると、直ぐに声をかけられた

お調子者でムードメーカーのマユと、大人しくていつもおどおどしているユカリだった。

「ユウカ!元気だった?!お家大丈夫?」

やはり話題は、転落した家の話しでもちきりだ
前の学校の子に再会したらこうなる事は想定していた

「団地は慣れたよ!狭いけど......ほら」

私はカナコのお母さんが買ってくれた、お揃いのブランド物のリボンのチャームがついた合鍵を自慢げに
二人に見せた

「これ、雑誌でみた事ある!すごい!!合鍵もいいなぁ」

リボンも鍵も、私の自慢のアイテムだった

この日を境に、意気投合した私達は四人でグループ
行動をとるようになった

それまでカナコと二人きりで行動してきたので
初めは慣れなかったが、大体はマユが率先して話を盛り上げてくれた。アイドルの話、漫画の話、好きな人の内緒話し、四人だとさらに話題が尽きず

いつもお腹を抱えて笑い合っていた。

どちらかと言えばオタクなグループの私達は全員帰宅部で、放課後も集まっては絵を描いたり色んな話しをした。

上辺だけでなく、心の底から大切と思える友達。

カナコと出逢う前は、どこか壁を作ってしまい仮面を被ったまま周りに合わせる事に必死だったので
なんとなく居心地が悪かった

やっと本音で向き合える、満ち足りた毎日

メンバーの中でもマユとは漫画の話でとにかく盛り上がった。

前の学校では、漫画クラブに一緒に入っていた仲だ

カナコとも漫画の話はしていたが圧倒的にファッションや男の子の話題が多かったので、自然と漫画の話はマユとする機会が増えた

マユは自分で漫画を描いていて、とても絵が上手かったので

「いいなー、マユくらい上手くなりたい」

そんな事を呟くと

「教えてあげる!家には漫画描く道具いっぱいあるし帰り寄ってく?」

私は少し驚いた。以前はクラブが一緒でよく話したのに一度もマユコの家には上がった事がないからだ

打ち解けた嬉しさと、カナコに対して少しだけ罪悪感があった

今までは暗黙の了解でカナコの家に寄って帰っていたので何となく、言いにくい......

「今日漫画の練習にマユんち寄るんだけど、カナコも行く?」

なるべく角が立たないようにサラッと聞いてみた。
マユは恐らく私だけが来ると思ってるけど、カナコと一緒でもすんなり承諾してくれるだろう

「あ、大丈夫だよ!ユウカ一人で行ってきな」

いつもの優しいカナコだった

カナコが不機嫌にならなくてよかった......
悪いことはしていないはずなのに、私は安心して
ホッと胸をなで下ろした。

放課後、マユと二人で家に向かった

四人でいる時より大人しくて、少し違う人に見えた

「無理してる訳ではないんだけどね、皆を明るくするの好きだし!でも時々疲れちゃうんだよね......
カナコは綺麗だからちょっと高飛車だし、ユカリはこっちから話題ふらないとだし。なんか、ユウカといるのが一番楽」

今思えば、悪口にも聞こえるが女子特有のものだろう

マユの発言が、私だけ特別と言われたみたいで素直に嬉しかった。

それに、私も前の学校ではピエロになって疲れてしまう事がよくあったので少し共感もあった

その日は遅くまで絵を描いたり、深い話を沢山して
二人の距離がグッと縮まった。

少しだけ、秘密の話を共有して......

それからも四人で遊んで、たまにマユの家に行く様になった。

マユの本音を聞いて以降、カナコへの罪悪感からか
私の描く漫画の主人公はカナコにそっくりな女の子になった。

とびきり美しい、天使みたいな女の子

下手くそで、我なら幼稚な発想だが人魚姫をモチーフに、ヒロインは泡にならず結ばれる恋愛漫画だった

ヒーローはカナコが一番好きなアイドルをモデルに
何度も練習して、なるべく格好良く描いた

全ては、カナコに喜んでほしかったから――

なんとか完成した漫画を持ち、その日はいつもより
ソワソワしながら登校した。

彼女が驚きながら喜ぶ姿を想像しただけで頬が緩む

マユは高飛車と言っていたけれど、私はカナコの
強くて美しい笑顔が大好きなのだ

後ろから指でつついてカナコを呼んだ

反応がない

いつもなら直ぐに振り向いて明るく、なぁに?と聞いてくるのに......

「ねぇってば!!」

早く見せたくて、強めにもう一度呼んでみたが
反応がない

「あれ......もしかして怒ってる?」

「別に、怒ってない」

背中を向けたまま、どこかへ行ってしまった

こんなカナコを見たのは初めてで
心臓の音がドクンとひびいて、嫌な予感がした。

この年頃の女の子はとにかく気難しい

ちょっとした事で拗ねたり機嫌を損ねるのを
前の学校ではよく目の当たりにしてきた

理由は些細な事で、その度に場を取り繕ったり
機嫌をとって元に戻るとホッとしていた

しかし、カナコは今まで一度もそんな姿を見せた事がない......

何か気に障る事をしてしまったのだろうか......

いくら考えても、何も浮かばなかった。

カナコを嫌な気分にさせる様な事をした覚えがない
これだけは、ハッキリ自信を持って言える

それだけ私は彼女を慕い、いつも彼女を想っていた

昨日だって皆で遅くまで遊んで帰ったし、いつも通り変わった様子もなく普通だった......

それでも、少し不安だった

何が気に障るのかを全部分かってるわけじゃないし
お家で何かあったのか、私が何か嫌な事しちゃったのか......

それなら、ちゃんと謝りたい!

直ぐに追いかけ、肩を叩いた

「ねぇ!どうしたの?!私何かした?」

振り返った彼女は、ゴミでも見るような冷たい目で
まるで別人だった

「二度と話かけないで」

何かしたのか、どうして怒っているのか
聞きたい事はいっぱいあるのに声が出なかった。

授業が始まり、とりあえず教科書を開いてみても
先生の声が遠くに聞こえて頭が真っ白になった

チャイムが小さく聴こえ、再び心臓の音が大きくなり手には嫌な汗をかいていた

休み時間......

カナコの机にマユとユカリが集まると三人で笑いながらヒソヒソ話をしていた

一人でいる事にも重い気分にも耐えかねた私は席を立ち、ヘラヘラしながらカナコの机へ向かった

「どうしたのー?私もいれてよ」

極めて明るく言ったつもりが、声が裏返ってしまった

カナコは再び冷たい目で私を見ると

「こいつ、今日から全員無視ね!!皆聞こえる?!
こいつに話かけるとデブが伝染るから」

きゃははは

彼女は高笑いしながら、クラス中に響く声で笑った

つられて近くにいた男子も笑い
「でーぶでーぶ」

私を蔑む言葉が、教室に鳴り響いた

大人しい子達もクスクスと笑いだした

美しい彼女の言葉に逆らう人は誰もいない

この日から、彼女はクラスの女王様になった。


#エッセイ
#小説
#創作
#連続小説
#自伝的小説
#ミスID2020
#ミスID


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?