見出し画像

春の風が吹いてきた日のこと

二週間前に約束したはずのその日が、気づけば明後日に近づいていた。
まだ会ったことのない君からは、会う約束をしてから特に連絡もなく、ただ毎日が過ぎているだけだった。

外には暖かい風が吹いて、桜も咲き始めた春先の季節だった。
ぼくに彼女ができて春が来るかな、なんて期待も頭に浮かばないほど、恋活もうまくいっていなかった。

きみから連絡が全然来ないもんだから、直前に予定が入ったという体でドタキャンされるか、そのまま連絡も取れず流れていくパターンのどちらかだな、と思った。

ぼく「約束の日、明後日ですけど大丈夫ですか?」
きみ「大丈夫ですよー!」

なんとも簡単な返事だったが、どうやら君はぼくとの約束を忘れていないし、一応会うつもりもあるようだ。

そんなこんなで期待することなく迎えた当日。ぼくの指定したカフェに向かう。少し道に迷ったが幸いにも、彼女はまだ来ていない。

人気のカフェだったようで何人か順番待ちをして席に通される。

ぼく「先に入って待ってますね。」
きみ「ごめんなさい!電車が遅延して10分くらい遅れそうです。」

ぼくは遅刻に関しては無頓着なので、気長に待つことにする。
といっても、はじめて会う人。落ち着けるわけがない。

カフェのドアが開き、大学生みたいな女の子がひょこっと顔を出す。
店員と話し、こちらに近づいてくる。

きみ「こんにちはー!」
ぼく「あっ、こんにちは。。。」
きみ「あはは、めっちゃ緊張してるー!!笑」

なんか拍子抜けしてしまった。というか、緊張するだろ…。

ぼく「とりあえず、なんかお昼食べましょうか?」
きみ「私、さっき食べたばっかなので、カフェラテだけで大丈夫です!」
ぼく「あっわかりました。(ランチ一緒にする約束じゃなかったっけ…)
ぼくはスープランチにしますね。」

注文をして会話に入る。

きみ「改めまして、はじめまして!」
ぼく「緊張してないんですか?」
きみ「アパレルで働いてるんで、初めての人と話すのは慣れてるんです!」

どうやらぼくとは反対の世界に住む、太陽のように明るい女の子のようだ。
その後も、お互いの仕事の話とか、よく遊ぶ場所の話とか、趣味の話とか、初対面の会話らしいなんの変哲のない話題が続く。

きみ「あの、パンちょっともらっていいですか!」
ぼく「ああ、どうぞ。(お腹空いてないんじゃなかったっけ)」

なんか変な子なのかな。その時のぼくはそれくらいしか思っていなかった。
でも多分ぼくはこの子のことを好きにならないし、この子もぼくのことは好きにならないんだろうな、そんなことをふと思った。この先はなさそうだと思ったら、今日の会話もそんなに長引かせる必要もないかなって思った。

ぼく「そろそろ行きましょうか。」
きみ「この後、どっか行くんですか?」
ぼく「ああ、ちょっと桜を撮りに。」
きみ「いいですね!行きましょう!」
ぼく「ん?」
きみ「あれ、ごめんなさい、そういう意味じゃなかったですか?
一人で行くつもりだったならごめんなさい!」
ぼく「(一人で行くつもりだったけど、)あ、せっかくなんで一緒に行きましょうか?桜の写真撮るだけですけど。」

勘違いなのか、作戦なのか、ぼくののんびり写真を撮りに行く予定は、天真爛漫で春一番みたいなきみと一緒に行くこととなった。

ぼく「無言で写真撮ってますけど大丈夫ですか?」
きみ「友達にも写真好きな子がいて、よく付き合ってるので大丈夫ですよー!」

桜の見物で賑わう公園は、家族やカップルも多くいて、その中を今日あったばかりの二人が特に話すこともなく、微妙な距離感で歩いているのがなんだか滑稽に感じた。

無言で撮ってて良いと言われたとはいえ、さすがに長時間は気がひける。今日は桜の写真をたくさん撮るのは諦めよう。

ぼく「少し公園歩きますか?」
きみ「そうですね!」

また付かず離れず微妙な距離感の二人は歩き出す。

ぼく「ベンチで少し休みますか。」
きみ「もうちょっとお話したいです!」

ベンチに座って話し出すと、ぼくに興味がないと思っていたきみは色んな質問をしてきた。全部は思い出せないけど、家族の話とか過去の恋愛の話みたいな話も話したっけ。

話も後半に差し掛かったころ、きみはこんな質問をした。

きみ「好きな色ってなんですか?」
ぼく「えっ、このタイミングで??みどりかな…?」
きみ「ふふっ。私は水色かな。」

後日聞いてみると、この質問は「今の気分を色で表すと?」というのが正しかったらしい。心理テストみたいなんだけど、質問間違えちゃダメだろ…。

緑は「落ち着いている状態」青は「冷静で集中力が冴えている状態」らしい。ちなみに正しい質問をされてたらオレンジって答えてたよ。(「前向きになっている状態」)

きみは天真爛漫に見えていたけど、しっかり話してみるとそんなことはなくて、学生時代も友達の少ない地味(こんなこと言ったら怒られるかな)な子だったみたい。

これからお父さんの誕生日プレゼントを買いに行きますという君と別れて、ぼくはお礼のLINEを送る。結局きみはぼくに興味をもってくれていたんだろうか。なんだかよくわからないまま、とりあえず次回の約束をする。

これで次の約束ができれば継続、できなければさよなら。わかりやすくていい。

はじめてあった君の第一印象はなんだか掴めなくて、わからないことも多かった。でもわかったことも確かにあって、ぼくの趣味に理解を示してくれるところ、そして能天気な元気娘というより、自分を守るために身につけた元気さなようだ、というところ。じっくり話した後半戦できみは弱いとこもぼくに見せてくれた。とりあえずそのことが嬉しかった。

好きかどうかもわからないし、きみが好きになってくれる保証はない。

でもきみはこれまで会った女の子たちとは何か違う気がして、もう一人他の女の子と会う約束をしていたんだけど、次の約束を断ってしまった。
ごめんなさい。

1日付き合ってくれたきみに、その日の最後に、「ありがとう」と「春のおすそ分け」という言葉を添えて、こんな写真を送った。

ぼくときみに春が来るのはもう少しあとのはなし。

サポートいただけると嬉しさで写真をいっぱいお見せする性格ですっ