ikinakya

柔らかな絹であれ

ikinakya

柔らかな絹であれ

最近の記事

+4

夏と吐き気とナイルホーラン

    • 愛しのデスク

       僕はちょうどいい机と椅子を買う才能に恵まれなかった。  想像する。例えばそれは濃淡のウォールナットでできた机。そばにスツールが置いてあってもよい。さよならとはじめましてを一度にこなしてくれる机。学習机ほど他人行儀でなく、ワーキングデスクほどの騒々しさはいらない、ただ広々とした一枚木の机。僕が両手を広げると、日々の辛さを和らげてくれて、心地よく使わせてくれる机。万が一にでも、机の上をごちゃごちゃさせない高貴な机。静謐で、尊敬できる机。  想いを馳せると、時間が過ぎゆく。昨日

      • 青菜に雪

         祝日寒空の下、前に向かって、 「公園ですか? 」 と私が聞くと彼はコクコク頷いた。その反応がこどもみたいで、おもわず笑った。思えばこの人の無邪気な笑顔なんて、久しく見ていなかった。  二人とも生まれは北海道だった。流行りものに流される目敏さをもって都心に出てきたのはいいもののあまり思うようにはいかず、お互い傷を隠す相手が必要だった。  何度か会ううちに自然と付き合った。似た者同士は惹かれあったわけではなく、寄り添い何も言わずにいてくれる相手を求めていた。傷をひけ

        • +2

          陽気に吹かれて、札幌

        夏と吐き気とナイルホーラン

        +4

          死にたくて、海で朝日を見ることにした。

           死にたくて、海で朝日をみることにした。車に乗って、風を受けて、誰にも邪魔されずに。  弥生を過ぎた日本の明け頃、私を覆っていたつきものがすべて消えた。それは、人はどういうふうに死にゆくのかとそんなことばかりに想いを馳せた半月前とは明らかに違っていた。そんなところに真実はなかったのだ。固執していたあらゆる執着はまったく息をひそめて、気がつくと悠然と真実を語る大地に、私は立っていた。とてつもないものを見つめる予感がして、背筋がピンと張った。そして、迷うことなく、誰にも気づかれ

          死にたくて、海で朝日を見ることにした。